海外で抹茶が売れていると聞いても、書類や英語のやり取り、代金の回収を考えると、自分で輸出するのは大変です。実は、抹茶を海外に売る方法は自分で輸出するだけではありません。この記事では、生産者が抹茶を海外に売る4つの方法を比べたうえで、輸出に要る書類、取引条件、代金の受け取り方、無料で使える支援を見ていきます。
抹茶を海外に売る4つの方法
生産者が抹茶を海外に売る方法は、大きく分けて4つあります。違いは、輸出の手続きを誰がするか、海外の買い手と誰が話すかです。
| 方法 | 手続きをする人 | 代金の受け取り | 海外の売れ行きの情報 | 向いている生産者 |
|---|---|---|---|---|
| 茶商・輸出商社に売る | 茶商・商社 | 国内の取引と同じ(円) | 入りにくい | 初めて輸出に関わる |
| 輸出代行を使う | 代行会社(名義や範囲は契約による) | 契約による | 契約による | 買い手は自分で見つけたが、手続きは任せたい |
| 海外の買い手のブランドで作る(OEM) | 契約による | 契約による | 買い手とやり取りする分、入りやすい | 粉砕や小分けの設備がある |
| 自分で輸出する | 自分 | 外貨のことも多い | 直接入る | 英語でやり取りでき、人手がある |
自分で輸出する場合と、商社に売る場合の違い
農林水産省北海道農政事務所の輸出の入門資料は、自分で輸出する「直接輸出」と、国内の輸出代理店や輸出商社を通す「間接輸出」を比べています。
- 直接輸出: 商社の手数料がかからず、現地の売れ行きが直接分かります。その代わり、書類づくりや金融機関・運送会社・税関とのやり取りをすべて自分で行い、書類の不備も自己責任になります。
- 間接輸出: 通関や船積みを任せられます。円で受け取れるため、為替や入金の時期を心配せずに済みます。その代わり、商社の手数料の分だけ現地の値段が高くなり、売れ行きが見えにくくなります。
出典: 農林水産省北海道農政事務所「『輸出』基礎の基礎 入門編」 https://www.maff.go.jp/hokkaido/suisin/keiei/shokusan/yusyutsu/attach/pdf/top-127.pdf
同じ資料は、輸出が初めてなら間接輸出から始め、軌道に乗ってから直接輸出に切り替えるやり方を紹介しています。
輸出代行とOEM
輸出代行は、海外の買い手との話は自分でまとめ、通関や書類の手続きを専門の会社に頼む形です。誰の名義で輸出するか、どこまで任せるかは契約で決まります。自分の名義で輸出し、申告だけを通関業者に頼むなら直接輸出に、代行会社が輸出者になるなら間接輸出に近い形になります。
OEMは、海外のカフェや小売のブランドで抹茶を作って納める形です。粉砕や小分け、ラベル貼りまで頼まれる場合は、その設備と検査の体制が要ります。
抹茶の輸出を担う会社の種類
国内で抹茶を買い取って海外に売る会社は、扱い方で分けると次のような種類があります。売り先を選ぶときは、相手がどの種類かを知っておくと話が早く進みます。
- 茶商・製茶問屋:産地の荒茶を買い、仕上げてから国内外に売ります。
- 輸出商社:茶に限らず、食品をまとめて海外に売ります。
- 仕上げ・粉砕の加工業者:碾茶を挽いて抹茶にし、海外の買い手に合わせた荷姿で出荷します。
- 輸出を専門にする会社:海外のカフェや卸に直接売ることを本業にしています。
農林水産省が認めた茶のフラッグシップ輸出産地(輸出実績が1億円以上などの要件があり、2026年10月時点で12産地)でも、輸出を担っているのは主に茶商や製茶会社、県の経済連などです。
荒茶・碾茶で売るか、抹茶に挽いて売るか
海外で売れているのは、抹茶を含む粉末状の茶です。挽いて売るほど値段は上がりますが、そのぶん設備と検査が要ります。
粉末状の茶は輸出単価が約2.3倍
農林水産省によると、2025年の緑茶の輸出は、粉末状の茶が輸出量の69%、輸出額の84%を占めました。1kgあたりの輸出単価は、粉末状が6,927円、それ以外が3,007円で、約2.3倍です。
出典: 農林水産省「茶をめぐる情勢(令和8年10月)」 https://www.maff.go.jp/j/seisan/tokusan/cha/attach/pdf/ocha-201.pdf
国によって売れる形も違います。米国向けは粉末状が輸出量の85%、EU・英国向けは78%ですが、台湾向けは88%が茶葉などの粉末状以外です。輸出額の推移と国別の伸びは、海外の抹茶ブームで、碾茶の値段と輸出はどう変わったかで取り上げています。
荒茶・碾茶で売る場合
碾茶のまま茶商や加工業者に売れば、粉砕の設備も、海外向けの小分けも要りません。値段は抹茶に挽いて売るより下がりますが、碾茶の荒茶価格は煎茶の約4.9倍あります。碾茶の作り方と切り替えに要るものは、碾茶とは?抹茶の原料の作り方と、煎茶から切り替えるときに要るもので取り上げています。
抹茶に挽いて売る場合
茶臼で挽き、海外の買い手が求める量に小分けする設備が要ります。輸出先によっては、工場の衛生管理の証明(タイのGMP証明書など)や、施設の登録も求められます。
自分で輸出するときの手続きと書類
自分で輸出する場合は、輸出先ごとに求められる書類が違います。確かめる項目は、植物検疫、原産地の証明、輸出先の食品の規制の3つです。
植物検疫と原産地の証明
農林水産省によると、茶を輸出するには、輸出先の求めに応じて植物防疫法にもとづく輸出検査を受ける必要があります。輸出先の求めは、輸入禁止、輸入許可証の事前取得、国内での栽培地検査など、国によってさまざまです。
経済連携協定(EPA)を使って関税を下げるには、原産地の証明が要ります。税関によると、日本からの輸出で原産地を自分で申告できる協定は、日豪、CPTPP、日EU、日英、RCEP(オーストラリア・ニュージーランド・韓国向け)、日米です。日米は輸入者が申告する方式です。タイ向けに日タイEPAを使う場合は、日本商工会議所が出す特定原産地証明書が要ります。
輸出先ごとの違い
ジェトロの国別の解説によると、抹茶の主な輸出先の手続きは次のとおりです。
| 輸出先 | 植物検疫証明書 | 食品の登録など | 関税 |
|---|---|---|---|
| 米国 | 不要 | 食品を加工・保管する施設はFDA(米国食品医薬品局)への登録が要る。海外の施設は米国の代理人を届け出る | フレーバーのない緑茶は無税 |
| シンガポール | 不要 | 輸入者がSFA(シンガポール食品庁)に輸入事業者として登録する | 関税はかからない(GSTはかかる) |
| タイ | 必要(一定以上加工したものは不要) | 輸入者がタイFDAの許可を取り、製造施設のGMP証明書を出す | 関税割当あり。割当内で経済連携協定を使えば無税 |
米国のFDAの施設登録は、偶数の年の10月から12月に更新が要ります。シンガポールの情報は2022年10月時点、タイは2024年10月時点の調査で、関税などは変わることがあるため、輸出の前にジェトロの最新の情報で確かめます。
輸出先の残留農薬と有機の茶
輸出で大きな壁の一つになるのが、輸出先の残留農薬の基準です。農林水産省は、日本の基準を満たしていても、輸出先の基準を満たせず輸出できない場合があると書いています。
協議会の残留農薬検査を使う
日本茶輸出促進協議会は、輸出用の茶の残留農薬検査を年100点、費用は協議会の負担で行っています。対象は、輸出を予定していて、どこで作ったかをたどれる荒茶か仕上げ茶で、1社1点で、応募が多いと抽選になります。2026年度の募集は6月に終わっているため、次の募集の時期を協議会のサイトで確かめます。
有機の茶の比重が大きい
2025年の米国向けの緑茶の62.8%、EU・英国向けの63.6%(いずれも輸出量)は、有機の同等性の仕組みを使って輸出した有機の茶でした。輸出先の基準に合わせた防除や有機の扱いは、碾茶の記事でまとめています。
取引条件と代金の受け取り方
自分で輸出する場合や、海外の買い手と直接話す場合は、どこで商品を引き渡すかと、代金をいつ受け取るかを決める必要があります。
引き渡しの条件(インコタームズ)
ジェトロの解説によると、主な条件は次のとおりです。
| 条件 | 売主が負うところ |
|---|---|
| FOB(本船渡し) | 日本の港で、買主が手配した船に積むまで |
| CIF(運賃保険料込み) | 船に積むまでの危険に加え、仕向港までの運賃と保険料 |
| DAP(仕向地持込渡し) | 輸出先の指定の場所に届けるまで。輸入の通関と関税は買主 |
| DDP(関税込持込渡し) | 輸出先の指定の場所に届け、輸入の通関と関税まで |
DDPは売主の負担が最も大きい条件です。条件によって、見積もりに入れる費用と、運ぶ途中の事故の責任を負う範囲が変わります。
代金の受け取り方と為替
ジェトロによると、代金を受け取れないリスクが最も低いのは、出荷前に全額を受け取る前払いです。後払いの送金には支払いの確約がないため、信用状(L/C:買い手の銀行が支払いを約束する書類)を使うか、前払いの割合を増やす方法があります。
為替のリスクを負わないのは、円建ての取引です。外貨で値段を出す場合は、計算に使ったレートと有効期限を書いておきます。茶商や商社に国内で売る間接輸出は、もともと円で受け取る取引です。
無料で使える輸出の支援
輸出を始める前の相談や検査には、国と業界団体の無料の支援が使えます。
GFP(農林水産物・食品輸出プロジェクト)
GFPは、農林水産省が進める輸出のプロジェクトで、会員登録は無料です。ジェトロや輸出の専門家と一緒に、輸出の可能性を無料で診断しています。診断ではS〜Fの7段階で今の段階を判定し、農政局の輸出アドバイザーの個別相談につなげています。会員どうしで「買いたい・売りたい」を募集できる掲示板もあります。
日本茶輸出促進協議会とは
日本茶輸出促進協議会は、日本茶の輸出を進める事業を企画・実施している団体で、日本茶業中央会・世界緑茶協会・日本茶インストラクター協会で構成されています。月ごとの輸出状況の公開、残留農薬検査のほか、残留農薬や輸出手続きの問い合わせ窓口を2026年4月から2027年2月まで試験的に設けています。
国の補助
輸出向けの栽培方法への切り替え(輸出先の基準に合う資材の導入や残留農薬の分析)には、国の茶の支援策で10aあたり5万円(もう一つの事業では費用の1/2以内)の補助があります。申請するのは農業者の団体などで、産地の計画づくりや面積の条件があります。
茶商・輸出会社に売るときに確かめること
手続きを任せられるぶん、茶商や輸出会社に売る場合は、相手選びと取引の条件が大切です。
海外の声が届くようにする
日本政策金融公庫の輸出のコラム(貿易アドバイザーの寄稿)は、商社を通す間接輸出では海外の販売先を教えてもらえないことが多いと書いています。対策として、品質のクレームを共有してもらうことや、現地の展示会への同行を取引の条件に入れることを挙げています。
相手の信用と支払いの条件を確かめる
北海道農政事務所の資料は、間接輸出では輸出を担う会社自身の信用を前もって十分に調べる必要があると書いています。支払いの時期と方法、買い取りか委託か、どの国のどんな店に売るのかも、取引を始める前に確かめます。
Omakase Matchaを運営する株式会社meguriは、シンガポール・タイ・インドネシアのカフェに日本の抹茶を届けるため、産地の生産者からの取引の相談を受け付けています。
参考にした情報
- 農林水産省北海道農政事務所「『輸出』基礎の基礎 入門編」(2026年5月改訂) https://www.maff.go.jp/hokkaido/suisin/keiei/shokusan/yusyutsu/attach/pdf/top-127.pdf
- 日本政策金融公庫 輸出コラム「第3回 輸出の方法」(2025年11月) https://www.jfc.go.jp/n/finance/keiei/yusyutu_column_03.pdf
- 農林水産省「茶をめぐる情勢(令和8年10月)」 https://www.maff.go.jp/j/seisan/tokusan/cha/attach/pdf/ocha-201.pdf
- 農林水産省「茶の輸出について」 https://www.maff.go.jp/j/shokusan/export/e_process/h_g_tea.html
- 税関「EPAの自己申告制度を利用した日本からの輸出について」 https://www.customs.go.jp/roo/information/epa/epa_ex.html
- ジェトロ「茶の輸入規制、輸入手続き(米国)」 https://www.jetro.go.jp/world/n_america/us/foods/exportguide/greentea.html
- ジェトロ「茶の輸入規制、輸入手続き(シンガポール)」 https://www.jetro.go.jp/world/asia/sg/foods/exportguide/greentea.html
- ジェトロ「茶の輸入規制、輸入手続き(タイ)」 https://www.jetro.go.jp/world/asia/th/foods/exportguide/greentea.html
- ジェトロ「インコタームズ2020」 https://www.jetro.go.jp/world/qa/04C-070304.html
- ジェトロ大分「インコタームズ2020年規則の解説」(FOB・CIF・DAP・DDP) https://www.jetro.go.jp/ext_images/jetro/japan/oita/magazine/136/trade_y.pdf / https://www.jetro.go.jp/ext_images/jetro/japan/oita/magazine/137/trade_y.pdf / https://www.jetro.go.jp/ext_images/jetro/japan/oita/magazine/back_number/134trade_y.pdf / https://www.jetro.go.jp/ext_images/jetro/japan/oita/magazine/back_number/135trade_y.pdf
- ジェトロ「輸出時の原産地証明書の使用方法」 https://www.jetro.go.jp/world/qa/04A-000969.html
- 米国連邦規則 21 CFR 1.232(食品施設登録の記載事項) https://www.law.cornell.edu/cfr/text/21/1.232
- ジェトロ「輸出価格の算定方法」 https://www.jetro.go.jp/world/qa/04J-140101.html
- ジェトロ「輸出債権の保全策」 https://www.jetro.go.jp/world/qa/04J-090502.html
- 日本茶輸出促進協議会「輸出用茶残留農薬検査実施要領」 https://nihon-cha.or.jp/export/pesticide_test/
- 日本茶輸出促進協議会 https://nihon-cha.or.jp/export/
- 日本茶輸出促進協議会「残留農薬・輸出手続き等に関する窓口試験設置のお知らせ」(2026年7月30日) https://nihon-cha.or.jp/export/topics/%e6%ae%8b%e7%95%99%e8%be%b2%e8%96%ac%e3%83%bb%e8%bc%b8%e5%87%ba%e6%89%8b%e7%b6%9a%e3%81%8d%e7%ad%89%e3%81%ab%e9%96%a2%e3%81%99%e3%82%8b%e7%aa%93%e5%8f%a3%e8%a9%a6%e9%a8%93%e8%a8%ad%e7%bd%ae%e3%81%ae/
- GFP「サービスについて」 https://www.gfp1.maff.go.jp/service/
- GFP「輸出診断とは」 https://www.gfp1.maff.go.jp/diagnosis
- 農林水産省「茶関連対策の支援内容について」 https://www.maff.go.jp/j/seisan/tokusan/cha/attach/pdf/ocha-154.pdf






