有機抹茶は、国内では茶舗や通販で有機JASマーク付きの商品として売られています。輸出に目を向けると、米国向けとEU・英国向けの緑茶は、すでに輸出量の6割強が有機です。この記事では、有機抹茶とは何か、普通の抹茶や「無農薬」とどう違うかを表示のルールから確かめたうえで、日本の有機の茶の量、輸出での伸び、碾茶(てんちゃ:抹茶の原料になる茶葉)を有機に切り替えるときの期間・品種・費用を見ていきます。
有機抹茶とは:有機JASの認証を受けた碾茶から作る抹茶
有機抹茶は、有機JASの基準で育てて認証を受けた碾茶を、認証を受けた工場で挽いた抹茶です。有機JAS(日本農林規格の有機の基準)は、栽培の方法だけでなく、第三者による認証と表示まで決めています。
有機JASで決められていること
農林水産省の資料によると、有機農産物の主な条件は次のとおりです。
- 堆肥などで土づくりをする
- 茶のような多年生の作物は、最初の収穫の前3年以上、化学的に合成された肥料と農薬を原則使わない
- 遺伝子組換えの苗を使わない
- 登録認証機関が、書類と現地の検査で基準を満たしているかを確かめて認証し、その後も最低1年に1回調べる
認証を受けた生産者は、作業の記録をもとに自分で格付(有機JASに合うと判定すること)をして、有機JASマークを付けて出荷します。
碾茶は農産物、抹茶は加工食品の認証
有機JASのQ&Aによると、摘んだ茶葉をすぐに荒茶にする工程は、茶葉の調製と見なされます。そのため、茶農家は農産物の認証のまま、碾茶(荒茶)に有機と表示して加工業者に出荷できます。
一方、同じQ&Aは抹茶を加工食品として扱っています。碾茶を挽いて抹茶にし、有機と表示して売る工場は、有機加工食品の認証を受けます。農家が荒茶を自分で消費者に直接売る場合や、茶葉を買い入れて荒茶にする場合も、有機加工食品の認証が要ります。
普通の抹茶・「無農薬」の抹茶との違い
違いは育て方と、第三者の認証があるかどうかです。農研機構の資料では、抹茶の色や品質は品種や茶期でも変わり、有機でも品質が重視される点は慣行の栽培と変わらないとしています。
「有機」と書けるのは有機JASマークが付いたものだけ
農林水産省によると、有機農産物と有機加工食品は表示が規制されています。有機JASマークが付いていないものは「有機」「オーガニック」と表示できません。普通の抹茶は、日本の残留農薬の基準などのルールの中で、農薬や化学肥料を使って育てます。
「無農薬」は表示しない語
農林水産省の特別栽培農産物の表示ガイドラインは、「無農薬栽培農産物」「減農薬栽培農産物」などの表示を禁止事項にしています。同じガイドラインのQ&Aは、生産者が「農薬を使わずに育てた」という意味で使っても、消費者には「土に残った農薬や周りの畑から飛んできた農薬も含めて一切含まない」と受け取られ、誤解を招いていたと説明しています。
有機でも使える資材がある
有機JASは「農薬を一切使わない」という基準ではありません。化学的に合成された農薬を原則使わない代わりに、有機JASで認められた資材は使えます。農研機構の資料では、茶の害虫向けに、有機JASで使える資材(スピノサドやBT剤)の適用を広げる取り組みが紹介されています。
日本の茶はどれだけ有機で作られているか
茶は、野菜や米と比べて有機の割合がずっと高い作物です。有機の茶園は鹿児島県が半分を占めています。
荒茶の6.70%が有機
農林水産省の2023年度の格付実績によると、緑茶(荒茶)の生産量6万8,000トン(2023年1〜12月の主産地の合計)に対し、有機JASで格付されたのは4,556トン(生葉は荒茶の5倍の重さで換算)でした。割合は6.70%で、野菜の0.43%、米の0.12%を大きく上回ります。
ほ場(畑)の面積で見ると、2024年3月31日時点の国内の有機JASのほ場2万1,888haのうち、茶畑は1,804ha(8.2%)です。農林水産省は、茶の有機JASの格付実績は増える傾向にあると書いています。
鹿児島が半分、宮崎は茶園の2割が有機
農林水産省によると、2025年の茶畑の有機JASほ場の面積は、鹿児島県が全国の52%を占め、静岡県18%、宮崎県13%と続きます。
農研機構の資料では、2023年度の茶園面積に占める有機JAS茶園の割合は、宮崎県20.9%、鹿児島県9.2%、静岡県2.1%でした。同じ資料は、鹿児島県で有機の茶園が多い理由として、病気に強い品種が多く入っていることを挙げています。都道府県ごとの茶の生産量は、お茶の生産量ランキングで取り上げています。
有機の茶の輸出は5年で約4.4倍
有機の茶の輸出量は2020年から2025年で約4.4倍になり、米国向けとEU・英国向けでは輸出量の6割強を占めています。農林水産省の資料では、有機の茶は海外での需要が高く、輸出先の残留農薬の基準も満たしやすいことから、輸出に向いていると評価されています。
有機の同等性を使った輸出量
農林水産省の集計によると、有機の同等性(次の見出しで説明)を使って輸出した茶は、2020年の1,023トンから、2025年は4,489トンになりました。2025年の内訳は、米国2,784トン、EU1,377トン、カナダ154トン、英国144トンなどです。
同じ2025年の緑茶の輸出量は全体で1万2,612トンなので、同等性を使った有機の茶4,489トンは、その約36%にあたる計算です。
出典: 農林水産省「茶をめぐる情勢(令和8年10月)」 https://www.maff.go.jp/j/seisan/tokusan/cha/attach/pdf/ocha-201.pdf
米国・EU・英国向けは有機が6割強
2025年の米国向けの緑茶4,431トンのうち、有機は2,784トン(62.8%)でした。EU・英国向けは2,393トンのうち1,522トン(63.6%)です。この2つの輸出先は、抹茶を含む粉末状の茶が輸出量の8割前後(米国85%、EU・英国78%)を占めます。輸出額や国別の伸びは、海外の抹茶ブームで、碾茶の値段と輸出はどう変わったかで取り上げています。
有機の同等性:「有機」として輸出できる国
有機JASの認証があれば、同等性を結んだ6つの国・地域に、その国の認証を取らずに「有機」として輸出できます。シンガポールとタイは対象に入っていません。
同等性とは
多くの国は「有機」の表示を規制しており、その国の認証を受けたものでなければ「有機」と表示できません。国どうしで認証の仕組みが同等だと認め合うと、日本の有機JASの認証をそのまま相手の国の認証として扱えます。これを有機の同等性といいます。
対象の国・地域
農林水産省によると、日本と有機の同等性を相互に認めているのは、2026年4月1日現在で次の国・地域です。
| 国・地域 | 農産物 | 農産物加工食品 |
|---|---|---|
| 米国 | ○ | ○ |
| EU | ○ | ○ |
| カナダ | ○ | ○ |
| 台湾 | ○ | ○ |
| 英国 | ○ | ○ |
| スイス | ○ | ○ |
オーストラリアやニュージーランドのように、同等性の承認がなくても日本の制度で認証された有機食品を輸出できる国もあります。同等性のない国に「有機」と表示して売るには、その国の有機の認証を受ける必要があります。
農研機構の資料も書いているとおり、同等性を使うには、まず有機JASの認証を取ることが前提です。輸出の手続きや書類の全体は、抹茶を海外に売る4つの方法で取り上げています。
碾茶を有機に切り替えるときに要るもの
煎茶の茶園を有機の碾茶に切り替えるには、最低3年と、有機に向く品種、土づくり、手間のかかる除草が要ります。農研機構は、安易に有機に取り組むのは避け、販売先を決めてから地域で進めるよう勧めています。
3年間と「転換期間中」の表示
茶のような多年生の作物は、最初の収穫の前3年以上、有機の管理を続けてはじめて「有機」と表示できます。転換を始めてから最初の収穫の前1年以上たてば、「有機」の表示の近くに「転換期間中」と書き添えて売ることができます。
始める前に確かめること
農研機構の資料(九州農政局の勉強会、2025年3月)は、切り替えの前に次の点を確かめるよう書いています。
- 茶園の過去の農薬の使用履歴(土に長く残る農薬があるため)
- 周りの畑から農薬が飛んでくるおそれ(地域でまとまって取り組むのが大事)
- 茶の木の樹齢(樹齢が高い茶園は、転換中の病害虫に耐えられないため、新しい品種に植え替えてから転換する)
- 堆肥を入れるなどの土づくりと、スプリンクラーなどの水の確保
品種:やぶきたは不向き
同じ資料は、「やぶきた」は病害虫に弱く碾茶の品質も劣るため、有機栽培にも碾茶にも向かないとしています。有機栽培と碾茶の両方に向く品種として、「せいめい」「さえあかり」「なんめい」「さえみどり」を挙げています。病害虫ではチャノミドリヒメヨコバイ(茶の新芽の汁を吸う小さな虫)と炭疽病が大きな壁で、やぶきたの有機茶園で二番茶が収穫できず刈り落とした例も紹介されています。
費用:認証・肥料・除草
有機栽培は、慣行の栽培と比べて、認証の費用、有機質の肥料代、除草の人件費がかかります。転換中は茶園が病害虫の被害を受け、3年ほどたつと茶園の生態系が整うと書かれています。
出典: 農研機構 果樹茶業研究部門「茶の有機栽培における主要な4つの課題とその対策の現状」(九州農政局 有機栽培茶生産・輸出拡大勉強会、2025年3月18日) https://www.maff.go.jp/kyusyu/keiei/zigyo/yukicha/20250318yuki5.pdf
覆いの資材や碾茶炉など、碾茶そのものに切り替えるときの設備は、碾茶とは?抹茶の原料の作り方と、煎茶から切り替えるときに要るもので取り上げています。
産地ではどう進んでいるか
静岡県の志太榛原地域では、有機の碾茶の生産量が2年で約1.4倍になりました。茶商の勧めで有機に切り替え、抹茶にして輸出している茶園もあります。
静岡県志太榛原地域
静岡県志太榛原農林事務所の資料は、国内では碾茶が煎茶の2倍以上の荒茶価格で取引され、特に有機の碾茶の需要が高まっていると書いています。
- 有機の碾茶の生産量:2021年度214トン → 2023年度297トン(2025年度の目標427トン)
- 有機の茶園(碾茶を含む):2024年度128ha(2021年度の167%)
- 地域で動いている碾茶工場:2025年度17工場、うち有機の碾茶を作る工場11
一方で、農薬の飛散や周りの農家の理解の問題で、有機の条件を満たす茶園を確保しにくいこと、碾茶を作る工場の能力が需要に追いつかないことを課題に挙げています。
茶商と組んだ例
関東農政局静岡県拠点の事例集(2026年3月)には、次のような例があります。
- 富士市の茶園(経営18ha):茶の値段が低い中、茶商から「有機に向く品種があるなら、有機にして輸出してはどうか」と助言を受けて切り替えた。14haが2024年4月に有機JASの認定を受け、碾茶は抹茶にして複数の茶商を通じて米国や欧州に輸出されている
- 島田市の農事組合法人(経営25ha):全面積で有機JASを取得。もともと害虫が少なく、切り替えのハードルは高くなかった。病気に強い品種への改植を進めている
- 川根本町の抹茶工場:生産者と茶商が出資して作り、年300トンの抹茶を作る。買い入れる碾茶は成分分析でS〜Eにランク分けし、それで買い取り価格を決めている
国の補助と相談先
有機への切り替えには、国の茶の支援策で10aあたり10万円の資材費の補助があります。申請するのは農業者の団体などで、産地の戦略を作ることや、実施面積が20a以上であることなどの条件があります。
国の茶の支援策(2026年度)
農林水産省の茶の支援策には、有機に関わるものとして次の単価があります。
| 内容 | 単価 |
|---|---|
| 有機栽培への転換に伴う資材費 | 10万円/10a |
| 碾茶向けの直接被覆栽培への転換に必要な資材費 | 10万円/10a |
| 輸出向け栽培体系への転換 | 5万円/10a |
| 中山間地域で有機栽培・碾茶に切り替えるための簡易な園地整備 | 費用の1/2以内 |
改植の補助など、ほかの単価と申請の条件は、碾茶の記事で取り上げています。条件は産地ごとに違うため、産地の農協や県の窓口で確かめます。
勉強会と相談先
九州農政局は、「有機栽培茶生産・輸出拡大勉強会」を2025年3月のキックオフから開いており、配布資料の一部を公開しています。有機JASの認証は、農林水産省に登録された登録認証機関に申し込みます。
Omakase Matchaを運営する株式会社meguriは、シンガポール・タイ・インドネシアのカフェに日本の抹茶を届けるため、碾茶や抹茶を作る生産者からの取引の相談を受け付けています。
参考にした情報
- 農林水産省「茶をめぐる情勢(令和8年10月)」 https://www.maff.go.jp/j/seisan/tokusan/cha/attach/pdf/ocha-201.pdf
- 農林水産省「茶関連対策の支援内容について(令和7年度補正予算/令和8年度予算概算決定)」 https://www.maff.go.jp/j/seisan/tokusan/cha/attach/pdf/ocha-154.pdf
- 農林水産省「転換期間中有機農産物とは」 https://www.maff.go.jp/j/jas/jas_kikaku/attach/pdf/yuuki-265.pdf
- 農林水産省 食品製造課基準認証室「有機食品の検査認証制度について」(令和7年10月、九州農政局 勉強会資料) https://www.maff.go.jp/kyusyu/keiei/zigyo/attach/pdf/kyushunouseiyukichashiryou-3.pdf
- 農林水産省「有機農産物、有機加工食品、有機畜産物及び有機飼料のJASのQ&A(令和7年10月現在)」 https://www.maff.go.jp/j/jas/jas_kikaku/attach/pdf/yuuki-543.pdf
- 農林水産省「有機認証制度の同等性について」 https://www.maff.go.jp/j/jas/jas_kikaku/attach/pdf/yuuki-555.pdf
- 農林水産省「同等性の仕組み等を利用した有機食品の輸出数量の推移(2010年~2025年)」 https://www.maff.go.jp/j/jas/jas_kikaku/attach/pdf/yuuki-568.pdf
- 農林水産省「令和5年度 認証事業者に係る格付実績」(令和8年5月訂正) https://www.maff.go.jp/j/jas/jas_kikaku/attach/pdf/yuuki_old_jigyosya_jisseki_hojyo-159.pdf
- 農林水産省「国内における有機JASほ場の面積(令和6年3月31日現在)」(令和8年6月掲載) https://www.maff.go.jp/j/jas/jas_kikaku/attach/pdf/yuuki_old_jigyosya_jisseki_hojyo-168.pdf
- 農林水産省「特別栽培農産物に係る表示ガイドライン」 https://www.maff.go.jp/j/jas/jas_kikaku/attach/pdf/tokusai_a-5.pdf
- 農林水産省「特別栽培農産物に係る表示ガイドラインQ&A」 https://www.maff.go.jp/j/jas/jas_kikaku/pdf/tokusai_qa.pdf
- 農研機構 果樹茶業研究部門「茶の有機栽培における主要な4つの課題とその対策の現状」(2025年3月18日) https://www.maff.go.jp/kyusyu/keiei/zigyo/yukicha/20250318yuki5.pdf
- 静岡県志太榛原農林事務所「茶の需要動向に対応した有機てん茶生産の拡大」(令和4〜6年度) https://www.pref.shizuoka.jp/_res/projects/default_project/_page_/001/027/019/05_kadaigaiyou_r6_shidahaibara.pdf
- 関東農政局静岡県拠点「補助事業を活用した茶業の発展・課題解決のための取組事例」(令和8年3月) https://www.maff.go.jp/kanto/chiikinet/shizuoka/cha_torikumijirei.pdf
- 九州農政局「有機栽培茶生産・輸出拡大勉強会(配布資料一覧)」 https://www.maff.go.jp/kyusyu/keiei/zigyo/kyushunouseiyukichashiryou.html






