煎茶を作ってきた茶農家にとって、碾茶(てんちゃ)は育て方も加工の設備も違う茶です。それでも、2025年産の荒茶の値段は煎茶の約4.9倍になり、碾茶に切り替える産地が増えています。この記事では、碾茶とは何か、煎茶との違い、作り方、主な産地、切り替えに要る設備と国の補助、輸出で求められる基準を順に見ていきます。
碾茶とは:抹茶になる前の茶葉
碾茶は、抹茶の原料になる茶葉です。茶臼などで微粉末にしたものが抹茶になります。
農林水産省の説明
農林水産省の資料では、碾茶を次のように説明しています。
- 摘む前に、棚などを使って茶園をよしず、こも、寒冷紗などの資材で2〜3週間ほど覆う
- 覆った茶園(覆下茶園)から摘んだ茶葉を蒸す
- 揉まずに、碾茶炉(てんちゃろ:碾茶を乾かす専用の炉)などで乾かす
そのうえで、碾茶を茶臼などで微粉末状にしたものを「抹茶」としています。つまり抹茶は、碾茶という茶葉を粉にした製品の名前です。
業界の表示のルールである日本茶業中央会の「緑茶の表示基準」(2026年7月10日改正)も、同じ定義です。碾茶炉にはレンガ製でない碾茶機も含み、茶臼には石臼と同じ働きをする粉砕機も含みます。
出典: 農林水産省「茶をめぐる情勢(令和8年10月)」 https://www.maff.go.jp/j/seisan/tokusan/cha/attach/pdf/ocha-201.pdf
「てんちゃ」と読み、甜茶とは別のもの
碾茶は「てんちゃ」と読み、「てん茶」と書かれることもあります。同じ読みの「甜茶」は、別の植物の葉から作る甘いお茶で、碾茶とは関係がありません。
荒茶の1割弱で、値段は煎茶の約4.9倍
2025年産の荒茶のうち、碾茶は8.6%を占めます。全茶期平均の荒茶価格は1kgあたり8,562円で、煎茶の1,746円の約4.9倍です。値段と生産量がここ数年でどう変わったかは、海外の抹茶ブームで、碾茶の値段と輸出はどう変わったかで詳しく取り上げています。
碾茶と煎茶・玉露の違い
碾茶と煎茶・玉露・かぶせ茶の違いは、摘む前に茶園を覆う期間と、加工で揉むかどうかの2点です。玉露・かぶせ茶・碾茶は、まとめて「おおい茶」と呼ばれます。
| 茶の種類 | 摘む前に覆う期間 | 加工 | 2025年産の荒茶価格(全茶期平均) |
|---|---|---|---|
| 煎茶 | 覆わない | 蒸して揉み、乾かす | 1,746円/kg |
| かぶせ茶 | 7日程度 | 蒸して揉み、乾かす | 2,387円/kg |
| 玉露 | 20日程度 | 蒸して揉み、乾かす | 3,699円/kg |
| 碾茶 | 2〜3週間程度 | 蒸して、揉まずに碾茶炉などで乾かす | 8,562円/kg |
覆う期間は玉露と近いですが、碾茶だけが揉まずに乾かします。揉まずに乾かした葉から茎や葉脈を除き、葉の部分を粉にして抹茶にします。
抹茶と煎茶の違い
飲み方も違います。煎茶は茶葉にお湯を注ぎ、出てきたお茶だけを飲みます。抹茶は碾茶を粉にして、茶葉ごとお湯やミルクに溶かして飲みます。
碾茶の作り方:覆って育て、揉まずに乾かす
碾茶は、茶園で覆って育てるところから、碾茶炉で乾かして茎を除くところまでが碾茶づくりです。粉にする工程は、そのあとに続きます。
1. 茶園を覆って育てる
農研機構(農業・食品産業技術総合研究機構)の被覆茶のマニュアルでは、碾茶向けの直がけ(茶の木に資材を直接かける方法)について、次の目安を示しています。
- 覆う期間は一番茶で20日間以上、二番茶で14日程度
- 資材は遮光率85%の黒色の寒冷紗
覆って日光を遮ると、旨味のもとのアミノ酸が増え、渋みのもとのカテキンが減り、覆い香と呼ばれる香りが出ます。同じマニュアルは、加工用の碾茶ではとくに濃く均一な緑色が重視されると書いています。
2. 摘んで蒸す
覆った茶園から新芽を摘み、蒸します。ここまでは煎茶と同じです。
3. 揉まずに碾茶炉で乾かす
蒸した葉を揉まずに広げ、碾茶炉で乾かします。煎茶の工場にある揉む機械は使いません。揉まずに乾かす碾茶炉(碾茶機などの乾燥機を含む)は、碾茶づくりに欠かせない設備です。
4. 茎や葉脈を除いて仕上げる
乾かした葉から茎や葉脈を取り除き、葉の部分だけを碾茶として仕上げます。この碾茶を茶臼(石臼と同じ働きをする粉砕機を含む)で微粉末にしたものが抹茶です。
茶園の覆い方:棚がけと直がけ
茶園の覆い方には、棚を組んで上から覆う棚がけと、茶の木に資材を直接かける直がけがあります。加工用の抹茶の原料を作る産地では、直がけが主流です。
棚がけ
高さ約2mの棚を組み、よしずやわら、こもなどで覆う昔からの方法です。玉露や高級な碾茶で使われてきました。農研機構は、棚の設置にかかる費用が高いため、棚がけの面積は2018年までの10年ほぼ横ばいだと書いています。
直がけ
寒冷紗などを茶の木に直接かける方法です。農研機構によると、飲料や菓子に使う比較的安い加工用の抹茶の原料を作る産地では、費用を抑えるため直がけが主流になっています。
国の支援策も、棚栽培への切り替えと、碾茶向けの直がけへの切り替えの両方に、資材費の補助を設けています。
碾茶に向く品種と主な産地
碾茶の生産量が最も多いのは鹿児島県で、京都府、静岡県が続きます。品種は、産地ごとに碾茶に向くものが選ばれています。抹茶というと宇治や西尾の名前がよく知られていますが、生産量では九州の比重が大きくなっています。
愛知県がまとめた全国茶生産団体連合会の調査数値では、2025年産の碾茶の生産量は全国で6,278トンです。
| 県 | 2025年産の碾茶の生産量 |
|---|---|
| 鹿児島県 | 2,670トン |
| 京都府 | 989トン |
| 静岡県 | 875トン |
| 愛知県 | 463トン |
| 三重県 | 398トン |
| 宮崎県 | 304トン |
| 福岡県 | 280トン |
鹿児島県だけで全国の4割強を作っています。碾茶工場も増えていて、農林水産省の普及事例では、静岡県の志太榛原地域で碾茶の生産量が463トンから793トンに(2021年度→2024年度)、碾茶工場が13から17に(2021年度→2025年度)増えたと紹介されています。
碾茶に向く品種
農研機構の被覆茶のマニュアルによると、碾茶はどの品種でも作れますが、直がけの碾茶には「さみどり」「おくみどり」「やぶきた」がよく使われます。農研機構と県の試験場は、次の品種を碾茶に向くとしています。
| 品種 | 碾茶に向くとしている資料 |
|---|---|
| せいめい | 農研機構が育成し、2020年に品種登録。抹茶・粉末茶の原料になる碾茶に向く |
| おくみどり | 鹿児島県:抹茶の色が濃い鮮やかな緑で、加工用に向く |
| さみどり・あさひ・おぐらみどり・展茗 | 京都府:奨励品種の中で碾茶への適性が最も高い(◎)品種 |
| つゆひかり・香駿・おくみどり・さえみどり | 静岡県:碾茶の見た目と色はつゆひかり・香駿・おくみどり、香りと味はさえみどりが優れる |
品種を変えるには改植が要るため、すぐには切り替えられません。いまある茶園で碾茶を作る場合は、覆い方と摘む時期で品質を整えることになります。
抹茶・粉末茶・加工用抹茶の違い
抹茶と呼べるのは、碾茶を微粉末にしたものです。煎茶などを機械で粉にしたものは「粉末茶」と呼ばれ、抹茶とは別のものです。
輸出統計の「粉末状」には粉末茶も入る
貿易統計では、緑茶を「粉末状のもの」と「その他のもの」に分けています。農林水産省によると、「粉末状」には抹茶と粉末茶の両方が入ります。輸出額のうち粉末状が8割を占めますが、そのすべてが抹茶ではありません。
加工用の抹茶
飲料や菓子、アイスクリームなどに使う抹茶は、加工用の抹茶と呼ばれます。農研機構は、昭和60年ごろから抹茶が食品に使われ始め、加工用の抹茶の需要が増えたことが、被覆茶の生産量が大きく増えた理由だと書いています。農研機構の2019年の資料では、抹茶の約95%が加工食品用、約5%が茶道用と推計されています。
煎茶から碾茶に切り替えるときに要るもの
煎茶から碾茶に切り替えるには、茶園を覆う資材と、碾茶炉のある加工場が要ります。どちらも費用がかかるため、国や県の補助を使える場合があります。
覆う資材と、茶園の作業
直がけの場合は寒冷紗などの資材と、かけ外しの手間が増えます。棚がけの場合は棚の設置が必要で、費用はさらに大きくなります。農研機構は、覆って育てると日光が足りず茶の木が弱り、収量や品質が安定しにくくなると書いています。
碾茶炉のある加工場
碾茶は揉まずに碾茶炉などで乾かすため、煎茶の工場の設備ではそのまま作れません。自前で碾茶のラインを入れるか、碾茶の加工を引き受けてくれる工場を探す必要があります。
県が公表している補助事業の例では、設備の規模は次のとおりです。
- 静岡県浜松市:輸出向けの碾茶加工ライン一式(レンガ式碾茶炉1基を含む)と製品の貯蔵施設などで総事業費約1億1,688万円(2024年度)
- 鹿児島県:碾茶ラインと工場建屋などで総事業費2億3,419万円〜7億3,733万円(2023年度の5件)
国の補助
国の茶の支援策には、碾茶への切り替えに使える補助があります。2026年度の主な単価は次のとおりです。
| 支援の内容 | 単価(持続的生産強化対策事業) |
|---|---|
| 碾茶向けに直接覆う栽培への切り替え資材 | 10万円/10a |
| 棚栽培への切り替え資材 | 10万円/10a |
| 有機栽培への切り替え資材 | 10万円/10a |
| 輸出向けの栽培方法への切り替え | 5万円/10a |
| 改植(茶の木の植え替え) | 15.2万円/10a |
出典: 農林水産省「茶関連対策の支援内容について」 https://www.maff.go.jp/j/seisan/tokusan/cha/attach/pdf/ocha-154.pdf
申請するのは農業者の団体などで、産地の計画を作ること、改植などの面積が20a以上であることなどの条件があります。碾茶工場など荒茶の加工施設は、強い農業づくり総合支援交付金(補助率1/2以内)などの対象です。静岡県のように、碾茶向けの被覆への切り替えに県独自の補助を設けている県もあるため、産地の農協や県の窓口で確かめます。
輸出向けの碾茶で求められること
碾茶を抹茶にして海外に売るときに一番の壁になるのは、輸出先の残留農薬の基準です。有機の茶も、輸出では大きな割合を占めています。
輸出先の残留農薬の基準
農林水産省は、日本の基準を満たしていても、輸出先の基準を満たせず輸出できない場合があると書いています。たとえば茶のクロチアニジンの基準値は、日本が50ppmなのに対し、シンガポールとタイは0.7ppmです(農林水産省の比較表、2026年9月1日時点)。
輸出先で基準値が決まっていない農薬は、EUでは一律0.01ppm、米国では検出されないことが求められます。農林水産省と農研機構の防除マニュアルは、長く覆って育てる碾茶は、日光が当たらないため農薬が分解されにくいおそれがあると書いています。
輸出先の基準に合わせた防除の方法も作られています。農研機構が京都で試した碾茶の米国向けの防除では、薬剤費は10aあたり4万8,920円で、これまでの防除より1,400円高い程度でした。
有機の茶と、有機の同等性
2025年の米国向けの緑茶の62.8%、EU・英国向けの63.6%(いずれも輸出量)は、有機の茶でした。農林水産省は、有機の茶は海外の需要が高く、残留農薬の基準も満たしやすいため、輸出に向いていると書いています。
有機JASの認証があれば、日本と有機の同等性を結んでいる国・地域(米国、EU、カナダ、台湾、英国、スイス)には「有機」として輸出できます。シンガポールとタイは、この同等性の対象には入っていません。
タイ向けに要る書類
ジェトロによると、タイに茶を輸出するには、植物検疫証明書(一定以上加工したものは不要)に加えて、タイの製造基準と同等以上の基準で作っていることを示すGMP証明書が要ります。証明には、ISO 22000やFSSC 22000などの認証のほか、日本の食品衛生法にもとづく営業許可証も使えます。
碾茶を作る段階から、どの国に売るかを決めて農薬の使い方や認証を選ぶことが、輸出で買い手を見つける近道になります。株式会社meguriは、シンガポール・タイ・インドネシアのカフェに日本の抹茶を届けるため、碾茶や抹茶を作る生産者からの取引の相談を受け付けています。
参考にした情報
- 農林水産省「茶をめぐる情勢(令和8年10月)」 https://www.maff.go.jp/j/seisan/tokusan/cha/attach/pdf/ocha-201.pdf
- 農林水産省「茶関連対策の支援内容について(令和7年度補正予算/令和8年度予算概算決定)」 https://www.maff.go.jp/j/seisan/tokusan/cha/attach/pdf/ocha-154.pdf
- 愛知県「2025年産茶の生産状況」(全国茶生産団体連合会調査数値) https://www.pref.aichi.jp/uploaded/attachment/622005.pdf
- 日本茶業中央会「緑茶の表示基準」 https://www.nihon-cha.or.jp/pdf/hyoujikijyun.pdf
- 農研機構「被覆茶安定生産マニュアル」(2018年) https://www.naro.go.jp/PUBLICITY_REPORT/publication/files/hihukucha-antei_man201803.pdf
- 農研機構「茶品種ハンドブック 第6版」 https://www.naro.go.jp/PUBLICITY_REPORT/publication/files/cha_hinshu_handbook06.pdf
- 農研機構ほか 品種「せいめい」のマニュアル(2019年) https://www.naro.go.jp/PUBLICITY_REPORT/publication/files/nifts_teaikusei_pamph201903031.pdf
- 鹿児島県農業開発総合センター 茶業部の普及成果(おくみどりの加工用適性) https://www.pref.kagoshima.jp/ag11/pop-tech/nenndo/documents/56364_20201113082445-1.pdf
- 京都府茶業研究所「茶奨励品種の栽培特性一覧」 https://www.pref.kyoto.jp/chaken/documents/hinsyutokusei.pdf
- 静岡県茶業研究センター「技術的な問合せへの対応」 https://www.pref.shizuoka.jp/sangyoshigoto/norinjimusho/1046794/1075832.html
- 静岡県「輸出拡大生産体制強化支援事業 募集要領」(2026年) https://www.pref.shizuoka.jp/_res/projects/default_project/_page_/001/085/137/boshuyouryose.pdf
- 農林水産省 普及事例(令和7年度、静岡県志太榛原地域) https://www.maff.go.jp/j/seisan/gizyutu/hukyu/h_zirei/r7/attach/pdf/r7-155.pdf
- 静岡県「令和6年度 産地生産基盤パワーアップ事業 実施地区」 https://www.pref.shizuoka.jp/_res/projects/default_project/_page_/001/026/990/r6_sanpajissitiku.pdf
- 鹿児島県「令和5年度 産地生産基盤パワーアップ事業」 https://www.pref.kagoshima.jp/ag06/sangyo-rodo/nogyo/santi-powerup/documents/63591_20240807114712-1.pdf
- 農林水産省「諸外国における残留農薬基準値に関する情報」 https://www.maff.go.jp/j/shokusan/export/zannou_kisei.html
- 農林水産省 茶の残留農薬基準値の国別比較表(2026年9月1日時点) https://www.maff.go.jp/j/shokusan/export/attach/pdf/zannou_kisei-955.pdf
- 農林水産省・農研機構「輸出相手国の残留農薬基準値に対応した日本茶の病害虫防除マニュアル~総合編~」(2016年) https://www.maff.go.jp/j/syouan/syokubo/boujyo/attach/pdf/export_manual-6.pdf
- 農研機構 革新的技術開発・緊急展開事業の成果(碾茶の米国向け防除体系) https://www.naro.go.jp/laboratory/brain/h27kakushin/chiiki/result/files/chiiki_2020_result-c022-y02.pdf
- 農林水産省「有機認証制度の同等性について」 https://www.maff.go.jp/j/jas/jas_kikaku/attach/pdf/yuuki-555.pdf
- ジェトロ「茶の輸入規制、輸入手続き(タイ)」 https://www.jetro.go.jp/world/asia/th/foods/exportguide/greentea.html






