抹茶を業務用に仕入れると、見積もりやサンプルと一緒に「COA」と書かれた書類を受け取ります。英語の Certificate of Analysis の略で、日本語では分析証明書や検査成績書と呼ばれます。数字が並んでいても、どの欄を先に見て、どの国の基準と比べればよいかが分からなければ判断に使えません。この記事では、抹茶のCOAに出てくる項目の意味を順に説明し、シンガポールの食品規則とタイの保健省告示、日本の基準とどう照らすかを、各国の法令と省庁の資料で確かめてまとめました。
抹茶の分析証明書(COA)とは
COAは、あるロットの抹茶を検査した結果を、規格の値と並べて示す書類です。ロットは、同じ原料と同じ条件で作った製品のまとまりで、袋や缶に番号が印字されます。COAの数字は、その番号の抹茶にだけ当てはまります。
COAに書かれていること
一般的なCOAには、次の欄があります。
| 欄 | 中身 |
|---|---|
| 品名・規格 | 商品名、産地、茶期など |
| ロット番号 | どのまとまりを検査したか |
| 日付 | 製造日、検査日、発行日 |
| 検査項目 | 水分、菌、残留農薬、重金属など |
| 規格値と結果 | 上限・下限の値と、測った値、単位 |
| 方法 | どの方法で測ったか |
| 検査した機関 | 社内か外部か、機関の名前と所在地 |
| 署名 | 発行した責任者 |
仕様書との違い
仕様書(スペックシート)は、「この範囲の品質で作ります」という約束を書いた書類です。COAは、そのロットを実際に測った結果です。仕様書の値を満たしているかは、COAの結果と仕様書の値を並べて初めて分かります。仕様書に水分の上限があるのにCOAに水分の欄がなければ、その項目は確かめられていません。
検査機関の成績書との違い
外部の検査機関に頼んだ検査では、その機関が自分の名前で成績書を出します。仕入れ先のCOAは、社内の検査結果と外部の成績書の数字をまとめた書類のこともあるため、残留農薬や重金属のように外部に頼む項目は、もとの成績書の写しも一緒にもらうと、検査機関と方法まで確かめられます。
最初に見る欄:ロット番号・日付・試料・検査機関
数字を読む前に、ロット番号と日付が手元の抹茶と合っているかを確かめます。番号が違えば、どれだけ良い数字でも、その抹茶の結果ではありません。
ロット番号
届いた袋や缶のロット番号と、COAのロット番号を突き合わせます。サンプルと本注文でロットが変わるなら、本注文のロットのCOAを改めてもらいます。複数のロットを合わせた商品は、どのロットを検査したかも聞いておきます。
製造日・検査日・発行日
検査日が製造日より前なら、原料の碾茶(てんちゃ:抹茶の原料になる茶葉)を検査した結果かもしれません。粉にした後の結果かどうかで、水分や菌の値は変わることがあります。賞味期限の考え方は抹茶の賞味期限と保存にまとめています。
試料と検査機関
COAの結果は、ロットから取り出した一部(試料)を測ったものです。どこから何g取ったかの記載があれば読み、なければ取り方を聞きます。検査機関の名前がない書類や、結果がすべて「0」で単位も方法も書かれていない書類は、そのまま判断に使わず、元の成績書を求めます。
水分と粒度の読み方
水分は保存中の劣化に関わる項目で、タイの茶の規格と数字で照らせます。粒度は法令の基準がなく、仕様書の値とロットごとのぶれを見る項目です。
水分
水分は、粉に含まれる水の割合で、%で書かれます。文部科学省の日本食品標準成分表(八訂)増補2023年では、抹茶の水分は100gあたり5.0gです。タイの保健省告示第196号「茶」は、茶の水分を8%以下と定めています。味をつけて密閉した容器に詰めた乾燥の茶(調製茶)は6%以下です。
抹茶は湿気を吸いやすいため、COAの水分は作った時点の値です。暑い国に着いてからの保管で上がることもあるので、届いた後の保管にも気を配ります。
粒度
粒度は粉の細かさで、COAではµm(マイクロメートル:1mmの1,000分の1)の中央値や、ふるいの目の細かさ(メッシュ)を通った割合で書かれます。どちらで書かれているかで数字の意味が変わるため、仕様書と同じ書き方で比べます。粒の細かさと口当たりの関係は抹茶の品質の見分け方にまとめています。
微生物の項目と、シンガポール・タイの基準
シンガポールとタイには、茶や粉末飲料に当てはまる菌の法定基準があります。ただ、COAによく並ぶ一般生菌数とカビ・酵母は、両国とも抹茶そのものには法定の上限を置いておらず、多くは仕入れ先の社内規格の値です。
項目の意味
| 項目 | 意味 |
|---|---|
| 一般生菌数(TPC) | 条件をそろえて培養したときに育つ菌の数。衛生状態の目安 |
| 大腸菌群(Coliforms) | 大腸菌に似た性質の菌のまとまり。衛生管理の目安 |
| 大腸菌(E. coli) | ふん便による汚れの目安になる菌 |
| カビ・酵母 | 湿気や保管の状態を見る目安 |
| サルモネラなど | 食中毒の原因になる菌(病原菌) |
単位のCFU/gは、1gあたりに育った菌の集まりの数です。「陰性」「不検出」は、決まった量の試料で見つからなかったという意味なので、何gで調べたかも見ます。
シンガポールの基準
シンガポールの食品規則第35条は、加熱などをせずにそのまま口にする食品(ready-to-eat food)を、第11付表の微生物基準に合わない限り輸入・販売してはならないと定めています。この「そのまま口にする食品」には、水や湯で溶かして飲む粉末飲料も含まれます。
出典: Singapore Statutes Online「Food Regulations」Eleventh Schedule https://sso.agc.gov.sg/SL/SFA1973-RG1?ProvIds=Sc11-#Sc11-
| 項目 | 上限(1gあたり) |
|---|---|
| 腸内細菌科菌群(大腸菌を含む) | 10,000 CFU未満 |
| 大腸菌 | 100 CFU未満 |
| セレウス菌 | 200 CFU未満 |
| ウェルシュ菌 | 100 CFU未満 |
| コアグラーゼ陽性黄色ブドウ球菌 | 100 CFU未満 |
| 表にないほかの病原菌(サルモネラなど) | 検出されないこと |
腸内細菌科菌群と大腸菌群は、数える菌の範囲が違います。日本のCOAが大腸菌群で書かれている場合は、そのままシンガポールの値とは比べられないため、腸内細菌科菌群の結果も出せるかを聞きます。抹茶の粉をこの区分で見るかは、輸入業者かシンガポール食品庁(SFA)に確かめておくと確実です。
タイの基準
タイの保健省告示第416号(2020年)は、表に挙げた食品に、決められた種類と量を超える病原菌を含んではならないと定め、茶もこの表に入っています。茶の欄は、サルモネラが25gで検出されないこと、黄色ブドウ球菌が0.1gで検出されないことです。加熱殺菌をせず、缶など外の空気が入らない固い容器に密閉して常温で保存する製品は、黄色ブドウ球菌が1gあたり100以下です。
抹茶だけの粉に、一般生菌数とカビ・酵母の上限はありません。味をつけて密閉した容器に詰めた乾燥の茶(告示第196号の「調製茶」。ラテ用のミックスなど)には、カビ・酵母1gあたり100未満の基準があります。ミックスを輸入するなら、この項目もCOAに入れてもらいます。告示の改正もありうるため、輸入の前に輸入業者かタイFDAに最新の規定を確かめます。輸入手続きの全体はタイに抹茶を輸入するにはにあります。
残留農薬と重金属の読み方
「基準に適合」と書かれていても、日本の基準での判定なら、輸入する国の基準に合うとは限りません。結果の数字と定量下限を、輸入する国の基準値と自分で並べます。
日本の基準での判定
日本の食品衛生法は、農薬ごと・食品ごとに残留基準を決め、基準を超える食品の販売や輸入を禁じています(ポジティブリスト制度)。個別の基準がない農薬には、一律で0.01ppm(1kgあたり0.01mg)が当てはまります。日本向けのCOAの「適合」は、この基準での判定です。
輸入する国の基準と照らす
シンガポールは食品規則の第9付表、タイは保健省の告示で、茶の残留農薬の上限を定めています。シンガポールでは、第9付表にない農薬には国際規格のコーデックスの値が当てはまります。タイの基準はタイに抹茶を輸入するにはにまとめています。国ごとの違いと比べ方は抹茶を卸で仕入れる方法にまとめています。インドネシアは、日本から輸入する緑茶について、インドネシアに登録された日本の検査機関で残留農薬などを検査するよう定めています(インドネシアに抹茶を輸入するには)。
「不検出」と重金属
残留農薬の「不検出」は、何種類の農薬を、どの濃度まで測れる方法で調べたかが分からなければ意味が決まりません。検査した農薬の数と定量下限(数値として示せる最小の濃度)を見ます。鉛などの重金属の基準値と単位のそろえ方は、抹茶に鉛は含まれるのかで国ごとに整理しています。
放射性物質の読み方
日本では、抹茶は粉の状態で一般食品の基準(放射性セシウム1kgあたり100ベクレル)が当てはまります。シンガポールとタイは、原発事故に伴う日本産食品の輸入規制をすでに撤廃しています。
日本の基準:抹茶は粉で100ベクレル
消費者庁によると、2012年4月からの放射性セシウムの基準値は、1kgあたり飲料水10、牛乳50、乳児用食品50、一般食品100ベクレルです。飲料水の区分には、水と代わりになる飲用茶も入ります。抹茶は葉ごと口にし、アイスクリームなどの原料にも使われるため、煎茶のように淹れたお茶の状態ではなく、粉の状態で一般食品の基準が当てはまります。
出典: 環境省「放射線による健康影響等に関する統一的な基礎資料(令和7年度版)」8.1 飲料、乾燥食品の基準値適用の考え方 https://www.env.go.jp/chemi/rhm/current/08-01-11.html
シンガポール・タイの輸入規制は撤廃済み
農林水産省によると、シンガポールは2021年5月28日に、タイは2015年5月1日(一部の野生動物肉を除く)に輸入規制を撤廃しました。2026年10月時点で何らかの規制が残るのは、韓国・中国・香港・マカオ・ロシアです。シンガポールとタイへの輸入に、放射性物質の検査書類は求められていません。
結果の読み方
放射性物質の欄があるCOAは、放射性セシウムの結果と、検出下限(あるかないかを判断できる最小の量)を見ます。「不検出」とだけあって検出下限がなければ、どこまで測れたのかが分かりません。お店のお客さんに説明する場面では、検出下限の数字があると答えやすくなります。
検査機関の認定の確かめ方
検査機関の信頼性は、ISO/IEC 17025の認定と、その認定の範囲に検査項目が入っているかで確かめます。認定は機関の検査の能力を認めるもので、製品が合格したという証明ではありません。
ISO/IEC 17025とは
ISO/IEC 17025は、試験所や校正機関の能力について定めた国際規格です。日本では、日本適合性認定協会(JAB)と、製品評価技術基盤機構の認定センター(IAJapan)が、この規格にもとづいて試験所を認定しています。IAJapanの認定制度は、各国の認定機関が互いの認定を認め合う国際的な取り決め(ILAC/APAC MRA)に加わっています。
認定機関の一覧で探す
JABの「JABに認定された適合性評価機関」の検索ページでは、認定番号、認定範囲、規格番号で機関を探せます。COAや成績書に認定番号が書かれていれば、その番号で検索します。IAJapanも、認定した事業者の一覧を公開しています。
認定範囲を見る
認定には範囲があり、どの検査の項目と方法が認められているかは機関ごとに違います。残留農薬は認定されていても、微生物は認定の範囲外ということもあります。成績書に認定のマークがあっても、その項目が範囲に入っているかを一覧で確かめます。
仕入れ先に頼むこと・聞くこと
COAは、見積もりの段階で「どの項目を、どの国の基準で」出してほしいかを伝えておくと、比べやすい形で届きます。後から項目を足すと、検査の時間と費用がかかります。
頼む書類
- 本注文のロットのCOA(サンプルのロットとは別に)
- 残留農薬・重金属など、外部の検査機関の成績書の写し
- 仕様書(COAの結果と並べるため)
- シンガポールなら腸内細菌科菌群、ラテ用ミックスをタイに入れるならカビ・酵母の結果
聞くこと
- COAの数字は、粉にした後の抹茶の結果か、原料の碾茶の結果か
- 検査機関の名前と、ISO/IEC 17025の認定番号
- 残留農薬は何種類を調べ、定量下限はいくつか
- 基準に近い結果が出たとき、再検査や出荷の判断をどうしているか
Omakase Matchaの書類
Omakase Matchaは、宇治・八女・鹿児島・静岡・宮崎の産地から直接仕入れた抹茶を扱い、注文は1kgから受け付けています。商品ごとに出す書類は品質・書類に、等級の違いは抹茶の等級にまとめています。サンプルは3種類までお送りしていますので、書類と一緒にご依頼ください。シンガポール・タイのお店への訪問もしています。
参考にした情報
- Singapore Statutes Online「Food Regulations」Regulation 35 https://sso.agc.gov.sg/SL/SFA1973-RG1?ProvIds=pr35-#pr35-
- Singapore Statutes Online「Food Regulations」Eleventh Schedule https://sso.agc.gov.sg/SL/SFA1973-RG1?ProvIds=Sc11-#Sc11-
- Singapore Statutes Online「Food Regulations」Regulation 30(残留農薬) https://sso.agc.gov.sg/SL/SFA1973-RG1?ProvIds=pr30-#pr30-
- タイ保健省告示第416号(B.E.2563)微生物(病原菌)の基準 https://exfood.fda.moph.go.th/law/data/announ_moph/P416.PDF
- タイ保健省告示第196号(B.E.2543)「茶」(タイ食品医薬品局掲載の改正込み版) https://food.fda.moph.go.th/media.php?id=510362387866591232&name=Compi_196.pdf
- 文部科学省「日本食品標準成分表(八訂)増補2023年」抹茶 https://fooddb.mext.go.jp/details/details.pl?ITEM_NO=16_16035_7
- 消費者庁「食品中の残留農薬等」 https://www.caa.go.jp/policies/policy/standards_evaluation/pesticide_residues
- 厚生労働省告示第497号(一律基準) https://www.caa.go.jp/policies/policy/standards_evaluation/pesticide_residues/assets/standards_cms208_240918_02.pdf
- 消費者庁「食品中の放射性物質の対策と現状について」 https://www.caa.go.jp/policies/policy/standards_evaluation/food_pollution/criterion/assets/standards_cms105_260626_01.pdf
- 環境省「放射線による健康影響等に関する統一的な基礎資料(令和7年度版)」8.1 https://www.env.go.jp/chemi/rhm/current/08-01-11.html
- 農林水産省「アジアにおける規制措置の変遷」 https://www.maff.go.jp/j/export/e_shoumei/oshirase/asia.html
- 農林水産省「輸出証明書の発行(放射性物質)」 https://www.maff.go.jp/j/export/e_shoumei/index.html
- インドネシア検疫庁長官令2025年2314号 付表II(農林水産省掲載) https://www.maff.go.jp/j/shokusan/export/attach/pdf/id_lab-26.pdf
- 製品評価技術基盤機構 認定センター「ASNITEの概要」 https://www.nite.go.jp/iajapan/asnite/outline/index.html
- 日本適合性認定協会「JABに認定された適合性評価機関」 https://www.jab.or.jp/certification_institutions
- 日本適合性認定協会「試験所・校正機関(ISO/IEC 17025)」 https://www.jab.or.jp/service/laboratory
- 製品評価技術基盤機構 認定センター「ASNITE認定事業者一覧」 https://www.nite.go.jp/iajapan/asnite/lab/index.html
























































































