抹茶は、碾茶(てんちゃ:覆いをかけて育て、揉まずに乾かした茶葉)を細かい粉にしたお茶です。粉なので重さあたりの表面積が大きく、丸久小山園も、緑茶の中でも抹茶は色や質が早く変わるとしています。カフェで毎日使うなら、何か月もつか、開けたらいつまでに使うか、暑い店のどこに置くかを決めておく必要があります。日本の表示のきまりと、老舗の公式の説明、保存試験の数字から確かめていきます。
抹茶に賞味期限はあるのか
抹茶にも賞味期限があり、それはおいしく飲める期限を表しています。過ぎたらすぐに飲めなくなるわけではありませんが、色と香りは少しずつ落ちていきます。
賞味期限と消費期限の違い
日本の食品表示基準(食品表示法に基づく国のきまり)では、期限の表示は2種類あります。
| 意味 | 決めるときに優先する試験 | |
|---|---|---|
| 消費期限 | 表示どおりに保存したとき、腐るなどして安全でなくなるおそれがない期限 | 微生物の試験など、安全にかかわる試験 |
| 賞味期限 | 表示どおりに保存したとき、期待される品質がすべて十分に保てる期限 | 理化学試験や官能検査(人が見て、かいで、味わう検査)など、品質の試験 |
日本茶業中央会の「緑茶の表示基準」でも、緑茶に表示する期限は賞味期限です。
出典: 消費者庁「食品期限表示の設定のためのガイドライン」(令和7年3月) https://www.caa.go.jp/policies/policy/food_labeling/food_labeling_act/assets/food_labeling_cms201_250328_1029.pdf
期限を過ぎた抹茶はどうするか
消費者庁のガイドラインは、賞味期限を過ぎた食品は、必ずしもすぐに食べられなくなるわけではないとしています。一保堂茶舗も、抹茶は傷まない(does not spoil)としたうえで、期限より前に開けて飲むことを勧めています。
ただし、カフェで出すときに見るのは、飲めるかどうかより、色と香りが店の基準に合うかどうかです。色があせた抹茶をストレートやラテに使うと、その違いがそのまま出ます。焼き菓子に回す場合も、山政小山園によると抹茶は加熱すると色が赤みを帯び、香りが感じにくくなるため、仕上がりを確かめてから使います。
賞味期限の表示の読み方
日本の抹茶の賞味期限は、封を切る前に、表示どおりに保存したときの期限です。年と月だけの表示は、その月の末日までを意味します。
未開封・表示どおりの保存が前提
消費者庁のガイドラインは、期限の表示は開封前の状態で、定められた保存方法で保存した場合の期限だとしています。日本茶業中央会の「緑茶の表示基準」の表示例では、緑茶の保存方法は「高温多湿を避け、移り香にご注意下さい」です。
封を切ったあとや、表示より高い温度に置いたあとは、印字された期限まで品質が保てるとは限りません。
「2027.5」とあれば5月31日まで
製造から賞味期限までが3か月を超える食品は、年と月だけで表示できます。日本茶業中央会の表示例も「2020年9月」のように年月です。消費者庁のQ&Aによると、年月で表示した期限は、その月の末日までと解されます。
本当の期限が月の途中にあたる場合は、前の月で表示します。たとえば期限が4月10日なら、表示は「3月」です。一保堂茶舗のように、年.月.日の順で日付まで書くお店もあります。
輸入した国で表示が変わることもある
日本に食品を輸入する場合、期限を表示するのは輸入業者で、海外の製造者が決めた期限をもとに、輸送や保管の条件も考えて決めるとされています。シンガポールやタイで仕入れた抹茶の期限が日本の袋と違って見えるときは、どの期限を、どの保存方法で決めたかを仕入れ先に確かめます。
開封前はどれくらいもつか
未開封の抹茶がもつ期間は、包装と保存温度で大きく変わります。老舗の山政小山園は、脱酸素剤を入れて密封した抹茶で、高温を避けた未開封なら8か月としています。
山政小山園は未開封で8か月
山政小山園は、抹茶商品に脱酸素剤(袋の中の酸素を吸う小袋)を入れて密封し、高温を避けた未開封の状態であれば8か月の賞味期限を保証しています。保存は冷凍庫・冷蔵庫・冷暗所など高温を避けた場所とし、低温のほうが品質を保つのに有効なので、冷凍や冷蔵を勧めています。
出典: 山政小山園「抹茶の取扱い」 https://www.yamamasa-koyamaen.co.jp/matcha/basic/handling.html
温度を変えた保存試験
伊藤園の研究者が茶業研究報告に載せた試験では、加工用の原料抹茶をアルミの袋に200gずつ入れ、封を切らずに4つの温度で24週置きました。袋には脱酸素剤を入れず、空気が入ったままです。
| 保存温度 | 24週後の緑の色素(クロロフィルa)の残り | 人が見て味わった評価 |
|---|---|---|
| −70℃ | 94.0% | 24週まで変化なし |
| 4℃ | 83.0% | 24週で少し変化があるが、商品の特徴に影響なし |
| 25℃ | 67.4% | 24週で変化を感じるが、商品の特徴は保てた |
| 37℃ | 33.7% | 点てたお茶の色(水色)は4週目、味は12週目に商品として使えない評価になった |
研究者は、25℃以下なら24週、商品の特徴を保てた一方、37℃では3〜4週が使える限界とまとめています。この試験は飲む用の抹茶ではなく加工用の原料抹茶で行ったものですが、温度が上がるほど早く傷むことは、老舗の説明とも合っています。
開封後はいつまでに使い切るか
開封した抹茶は、1か月以内に使い切るのが目安です。日数で示しているのは一保堂茶舗で、山政小山園と丸久小山園は「早めに」「新鮮なうちに」としています。
| お店 | 開封後の目安 |
|---|---|
| 一保堂茶舗 | 開封後1か月以内に飲むのが一番おいしい |
| 山政小山園 | 開封後は早めに使う。湿気のない冷暗所で短期間に使い切る |
| 丸久小山園 | 開缶後は新鮮なうちに飲む |
一保堂茶舗は、抹茶は開封しても傷まないものの、開けたときから少しずつ鮮度が落ちていくと説明しています。山政小山園も、使う量が少ないのに大きな袋を買うと、開けてからの保存期間が長くなり、品質を落とすとしています。
劣化のサインと、その原因
抹茶が劣化すると、鮮やかな緑が赤みを帯び、覆い香(おおいか:丸久小山園の説明では、覆いをかけて育てた抹茶の甘みのある香り)が傷んだ香りになります。原因は温度・湿気・光・におい・酸素の5つです。
色・香り・形で見るサイン
| サイン | 主な原因 | 出典 |
|---|---|---|
| 緑が赤みを帯びる | 高温・高湿、古くなる | 山政小山園、丸久小山園 |
| 覆い香が傷んだ香りになる | 高温・高湿、古くなる | 山政小山園、丸久小山園 |
| 緑があせる | 日光や照明の光 | 山政小山園 |
| ほかのにおいがする | 冷蔵庫や棚のにおいが移る | 山政小山園、一保堂茶舗 |
| 崩れない小石のような塊がある | 濡れた手や道具から水滴が入った | 山政小山園 |
山政小山園によると、ふるえば崩れる小さなダマは、静電気や保存中の自重でできるもので、水滴でできる崩れない塊とは別のものです。ダマの防ぎ方は抹茶の点て方にまとめています。
色が赤くなるのは緑の色素が減るため
上の保存試験では、37℃で置いた抹茶は、表面の色が赤の方向へ大きく動きました。研究者は、緑が減っていく様子は、緑の色素であるクロロフィルaが減る量とよく合っていたと報告しています。袋の中の酸素は、温度が高いほど早く減っていて、研究者は色素が酸素のある状態で分解したと推定しています。
光は数時間でも影響する
三重県工業研究所は、抹茶を加工食品の中で最も光に弱いものの一つとしています。約5,000ルクスの光を3〜8時間当てて色を測った試験では、蛍光灯でもLEDでも劣化の度合いに差はありませんでした(LEDは放熱で試料の温度が上がったためと考察しています)。蛍光灯を当てた抹茶は、においの質も変わりました。
透明な瓶に入れてカウンターや棚に出しておくと、照明だけでも色が抜けていきます。
湿気も大きい
京都府の茶業研究所が緑茶の茶葉で調べた試験では、温度・酸素・水分のうち水分の影響が大きく、湿気を吸ったお茶は1か月後に赤みがかった渋いお茶になりました。抹茶についても、山政小山園は水分を含むと傷みが極めて早くなるとしています。
抹茶の保存方法(開封前・開封後)
未開封の抹茶はできるだけ低い温度で、開けた抹茶は密閉して光と湿気を避けて置きます。冷やした抹茶は、必ず常温に戻してから開けます。
未開封の抹茶
- 冷蔵庫か冷凍庫に入れる。山政小山園は冷凍や冷蔵を勧め、丸久小山園は缶はできるだけ冷蔵、冷凍は長く置く場合だけとしている
- 冷やした抹茶は、袋や缶を閉じたまま常温に戻してから開ける。冷たいまま開けると、温度差で空気中の水分が結露して、急速に傷む
- 長く置く分は、封を切らずにとっておく(山政小山園)
開封後の抹茶
開封後を冷蔵庫に入れるかどうかは、老舗で意見が分かれます。
- 丸久小山園:においが移らないよう、フタをしっかりしめて冷蔵庫に入れる
- 山政小山園:短期間で使い切るなら、冷蔵・冷凍は必ずしも要らない。出し入れのたびの結露と温度変化を避けるため、湿気のない冷暗所に置く。密封しないまま冷蔵庫に入れると、湿気とにおいを吸う
- 一保堂茶舗:光を通さない密閉容器に入れ、香辛料やコーヒーなどにおいの強いものから離して戸棚に置く。袋入りなら、巻いてクリップで閉じる
3社に共通するのは、密閉すること、光を通さないこと、においの強いものから離すことです。冷蔵庫に入れる場合は、密閉したうえで、使う分を取り出すたびに常温に戻す手間がかかります。
温度が上下する場所は避ける
京都府の茶業研究所は、開封後の茶葉の保管を調べ、室温が10℃以上上下する場所では、温度変化で湿気を吸いにくい魔法瓶の水筒が、10℃以下なら空気を抜く容器が向くと提案しています。茶葉での結果ですが、温度が上下すると湿気を吸いやすくなるという点は、抹茶の結露の注意とも重なります。
暑い国のカフェでの保管
シンガポールとバンコクは、1年を通して月の平均気温が25℃を超えています。保存試験で品質が保てたと確かめられているのは25℃以下なので、未開封の在庫はエアコンの効いた場所か冷蔵庫に置き、開けた袋は短い期間で使い切ります。
シンガポールとバンコクの気温・湿度
| シンガポール | バンコク | |
|---|---|---|
| 月の平均気温 | 26.8〜28.6℃ | 27.3〜30.7℃ |
| 1日の最高気温(平均) | 月ごとに30.5〜32.4℃ | 年平均33.7℃(4月は35.7℃) |
| 湿度(年平均) | 約82%(日の出前は90%超) | 73% |
| 出典 | シンガポール気象局(チャンギの地点、1991〜2020年) | タイ気象局(バンコクの地点、1991〜2020年) |
消費者庁のガイドラインも、常温で保存する食品の期限を決めるときは、出荷先の外気温や流通・販売の温度を考える必要があるとしています。袋に印字された期限は、表示どおりの保存方法で置いたときのものです。
店でできること
ここからは、上の資料をもとにした編集部の提案です。
- 未開封の在庫は冷蔵庫に入れ、使う前日に出して袋のまま常温に戻す
- 夜にエアコンを止める店では、在庫を店内の棚に置かない(温度が上下して結露しやすくなる)
- 開けた袋や缶は、光を通さない密閉容器に入れ、エスプレッソマシンやオーブンなど熱の出る機械から離す
- カウンターに出す分は、その日に使う量だけにする。透明な瓶には入れない
- 届いたときの抹茶を少し密閉して冷凍しておき、色が気になったら同じ条件で点てて比べる
新しいロットの確かめ方は、抹茶の点て方の最後にまとめています。
仕入れ量の決め方
開けた袋を1か月以内に使い切れる大きさで買い、未開封の在庫は、低い温度で置ける量までにします。山政小山園も、1kgを1袋買うより500gを2袋に分けるなど、使う量に合わせて小分けで買うよう勧めています。
1か月に使う量を出す
1か月に使う量は、次の式で出せます。
1か月に使う量 = 1日の杯数 × 1杯に使うグラム数 × 1か月の営業日数
一保堂茶舗の抹茶ラテのレシピは、1杯3gです。たとえば1日30杯、30日営業なら、30 × 3g × 30日で2.7kgになります。1杯の量と原価の考え方は、カフェの抹茶ラテに使う抹茶の選び方にまとめています。
袋の大きさは、開けてから使い切るまでの日数で選ぶ
| 1日の杯数(1杯3g) | 1日に使う量 | 1kgの袋を使い切るまで | 500gの袋を使い切るまで |
|---|---|---|---|
| 10杯 | 30g | 約33日 | 約17日 |
| 30杯 | 90g | 約11日 | 約6日 |
| 60杯 | 180g | 約6日 | 約3日 |
1日10杯ほどの店では、1kgの袋を開けると使い切るまでに1か月を超えます。この場合は、500gなど小さい袋に分けて仕入れると、一保堂茶舗の目安の1か月に収まります。
未開封の在庫は、置ける温度で決める
未開封の在庫をどれだけ持てるかは、置き場所の温度で変わります。
- 冷蔵庫に入る量:賞味期限までの残りの期間の範囲で持てる
- 25℃以下に保てる場所:保存試験で24週、商品の特徴が保てた範囲
- 25℃を超える場所しかない:25〜37℃で何週もつかを示した資料は編集部では見つけられていないため、在庫は少なくし、こまめに仕入れる
仕入れるときは、届く抹茶の賞味期限までの残りの期間と、仕様書に書かれた保存方法を仕入れ先に確かめます。書類の中身は品質・書類にあります。1商品1kgから注文でき、サンプルは3種類まで取り寄せられます。等級の違いは抹茶の等級をご覧ください。
参考にした情報
- 消費者庁「食品期限表示の設定のためのガイドライン」(令和7年3月) https://www.caa.go.jp/policies/policy/food_labeling/food_labeling_act/assets/food_labeling_cms201_250328_1029.pdf
- 日本茶業中央会「緑茶の表示基準」(令和8年7月10日最終改正) https://www.nihon-cha.or.jp/pdf/hyoujikijyun.pdf
- 山政小山園「抹茶の取扱い」 https://www.yamamasa-koyamaen.co.jp/matcha/basic/handling.html
- 丸久小山園「抹茶について・お茶の保存方法」 https://www.marukyu-koyamaen.co.jp/about-tea/know-matcha.html
- 一保堂茶舗「How to Keep Your Matcha Fresh」 https://ippodotea.com/blogs/ippodo-tea-blog/how-to-keep-your-matcha-fresh
- 一保堂茶舗「Matcha Latte Recipe」 https://ippodotea.com/blogs/recipes-to-brew-japanese-tea/matcha-latte-recipe
- 原口康弘ほか「原料抹茶の保存条件が品質に与える影響」茶業研究報告 93号(2002) https://www.jstage.jst.go.jp/article/cha1953/2002/93/2002_93_1/_pdf
- 佐合徹・井上幸司「LED技術を利用した抹茶の光劣化軽減に関する調査」三重県工業研究所 研究報告 37号(2013) https://www.pref.mie.lg.jp/common/content/000172115.pdf
- 京都府農林センター茶業研究所「試験研究業務月報」(令和4年2月) https://www.pref.kyoto.jp/nosoken/monthlyreport/documents/040203.pdf
- 京都府農林センター茶業研究所「開封後も美味しく飲める茶葉の簡単・低コストな保管法の考案」 https://www.pref.kyoto.jp/nougijyutsu/documents/tizityayouki.pdf
- Meteorological Service Singapore「Climate of Singapore」 https://www.weather.gov.sg/climate-climate-of-singapore/
- タイ気象局「Climatological Data for the Period 1991-2020」 https://ubonmet.tmd.go.th/files/MetInfo/climate_normal.pdf
























































































