抹茶ラテを出すカフェでは、茶筅(ちゃせん)を毎日何度も使います。竹の道具なので、浸し方や乾かし方を間違えると穂が折れたり、カビが生えたりします。この記事では、茶筅の産地と種類を公的な資料で確かめ、使う前の準備から洗い方、替え時、カフェで複数本を回す方法、海外に持ち込むときの植物検疫までを見ていきます。
茶筅とは
茶筅は、竹の筒の先を細かく割って作る、抹茶の泡立て器です。抹茶の粉をお湯と混ぜ、泡を立てるために使います。英語では matcha whisk、または日本語の読みのまま chasen と呼ばれます。
竹で作る理由
京都の老舗、一保堂茶舗は、金属のフォークやミキサー、抹茶用の新しい道具などを試したうえで、茶筅が今も抹茶を点てるのに一番よい道具だと結論づけています。同社は理由を次のように説明しています。
- 竹は細い穂に削れるので、細かい抹茶の粉をお湯とよく混ぜられる
- 折れにくく、弾力があるので、すばやく混ぜられる
- やわらかいので、茶碗を傷つけない
点て方は別の記事に
茶筅の持ち方と動かし方、点てる時間は、抹茶の点て方にまとめています。この記事では、茶筅そのものの選び方と手入れを扱います。
産地:奈良県生駒市の高山
国内の茶筅の産地は、奈良県生駒市の高山です。ここで作られる「高山茶筌(たかやまちゃせん)」は、国の伝統的工芸品に指定されています。
伝統的工芸品の指定
伝統的工芸品は、伝統的な技術と原材料で、一定の地域で作られてきた工芸品のうち、経済産業大臣が法律に基づいて指定したものです。2025年10月27日時点で244品目あります。経済産業省の一覧と伝統的工芸品産業振興協会の紹介によると、高山茶筌の指定は昭和50年(1975年)5月10日です。主に作られている地域は生駒市で、主な製品には茶筌、美術品と並んで「コーヒーの泡立て用」も挙がっています。
出典: 伝統工芸 青山スクエア(一般財団法人 伝統的工芸品産業振興協会)「高山茶筌」 https://kougeihin.jp/craft/0625/
始まりと、ほかに産地がないこと
同協会によると、高山茶筌は室町時代の中ごろ、高山の領主の子が、茶道を始めた村田珠光に頼まれて作ったのが始まりです。作り方は長く跡継ぎだけに伝えられ(一子相伝)、のちに16人の家来に伝えられました。同協会は、高山が全国で唯一の茶筌の産地になったとしています。
生駒市も高山を「茶筌発祥の地」と紹介しており、2025年の大阪・関西万博の展示に高山茶筌を出しました。高山茶筌を仕入れたい場合は、産地を販売元に確かめます。
種類:穂の数・竹・形は流派と用途で変わる
高山茶筌は120種類あり、茶道の流派と用途によって、素材や形、穂の数が変わります。用途には、薄茶用、濃茶用、献茶用(神社や寺にお茶を供えるとき)、野点用(屋外の茶会)、茶箱用(持ち運ぶ道具箱に入れるもの)などがあります。
穂の数の数え方
茶筅の名前にある「80本立」の80は、割った穂の総数ではなく、外側に開いた穂(上がり穂)の数です。伝統的工芸品産業振興協会の工程の説明では、80本立の場合、16に割った竹の1片をさらに平均10本に割って160本にし、そのうち上がり穂が80本になります。
同協会によると、穂にする部分は流儀や用途によって60本から240本に割ります。穂の数ごとの名前と本数の対応を示した公的な資料は、編集部では見つけられませんでした。販売店の説明は店ごとに範囲が違うため、買うときは本数と用途(薄茶用か濃茶用か)を販売元に確かめます。
竹と糸
伝統的工芸品としての高山茶筌には、材料の決まりがあります。
| 項目 | 決まり |
|---|---|
| 竹 | ハチク(淡竹)、クロチク(黒竹)、またはマダケ(真竹) |
| 糸 | 木綿糸 |
| 割り方 | 小刀で浅く割ったあと、竹の繊維に沿って手で裂く |
| 穂の仕上げ | 味削り(穂を薄く削る)、しごき(穂を曲げる)、面伏せ |
同協会の工程の説明では、冬に切り出した2〜3年生のハチクを、寒い時期にさらして貯蔵してから使います。穂を薄く削る「味削り」は、茶の味が変わるといわれるほど難しい工程です。
カフェで選ぶときの目安
ここからは編集部の考え方です。カフェで薄茶やラテ用の抹茶を点てるなら、まず薄茶用の茶筅を選びます。流派の決まりに合わせる必要がない店なら、本数よりも、穂が均一にそろっているか、柄に対してまっすぐか、産地はどこかを見て選びます。同じ型を続けて買える仕入れ先にしておくと、店の点て方をそろえやすくなります。
使う前の準備
使う前に穂先を水に浸し、茶碗と一緒に温めておきます。乾いたままの穂は折れやすいためです。
水に1〜2分浸す
一保堂茶舗は、穂先を下にして水を入れたカップに立て、1〜2分ほどで使えるとしています。目的は、穂先をしなやかにして折れにくくすることです。
英語の販売店の解説記事では、浸す時間が「数秒」「20〜30秒」「1〜2分」「2〜3分」と記事ごとに違い、編集部が読んだ範囲では、時間の根拠となる資料は示されていませんでした。店で決めるなら、一保堂茶舗の1〜2分を基準にし、穂の状態を見て調整します。
茶碗と一緒に温める
山政小山園は、茶碗と茶筅をお湯で温めておくと、茶筅がしなやかになって点てやすくなるとしています。カフェでは、点てる前に茶碗にお湯を張り、そこに茶筅を立てておくと、温めと浸しを一度にできます。
洗い方と乾かし方
使ったらすぐ、石けんを使わずに水ですすぎ、ケースに入れずに乾かします。抹茶の粉が穂に残ったまま乾くと、落としにくくなります。
洗い方
一保堂茶舗の手入れの案内は、次のとおりです。
- 使ったらすぐ、乾く前に水ですすぐ(石けんは使わない)
- 穂に粉が残っていたら、水の中で指でやさしく落とす
- 風通しのよいところで乾かす
出典: 一保堂茶舗「Chasen (Matcha Whisk) Care」 https://ippodotea.com/blogs/recipes-to-brew-japanese-tea/chasen-pointers
茶筅はミルクに入れない
一保堂茶舗は、茶筅は水と抹茶だけに使い、ラテのミルクは点てたあとに加えるとしています。カフェでは、ミルクを泡立てる道具と茶筅を分け、茶筅でミルクを混ぜないようにします。
ケースに入れたまま乾かさない
一保堂茶舗の茶筅は、保護用のケースに入れて届きます。同社は、このケースは保管用ではなく、入れたままにするとカビが生えることがあるとしています。乾くまでは、ケースやふた付きの容器に入れません。
くせ直し・保管・替え時
乾かすときは、くせ直し(茶筅立て)に穂先を下にして立て、穂の形を保ちます。くせ直しは、茶筅をかぶせて立てておく台です。
くせ直しの使い方
一保堂茶舗は、洗った茶筅を、きれいな茶筅立てに穂先を下にして置き、風通しのよいところで乾かすとしています。濡れているうちに台にかぶせておくと、乾く間に穂の形が保たれます。英語で matcha whisk holder と呼ばれるのは、この台です。
竹ではなく樹脂で作った茶筅もあります。巣鴨の茶店、山年園は2025年11月に、日本製で食器洗浄機に対応し、専用のクセ直しが付いた樹脂製の茶筅を出しています。
柄のひびと保管
一保堂茶舗によると、保管する場所の湿度が変わると、柄(持ち手)にひびが入ることがあります。穂の根元を編んだ糸がひびの広がりを止めるので、柄にひびが入っても使えます。同社の店舗や茶房で毎日使っている茶筅にも、ひびの入ったものが多いとしています。
替え時
茶筅の替え時を月数や使った回数で示した公的な資料は、編集部では見つけられませんでした。英語の販売店の解説記事には「2〜4か月」「6か月〜1年」「1〜2年」などの数字がありますが、編集部が読んだ範囲では、どれも出典は示されていませんでした。
一保堂茶舗は、穂が多く折れて、以前のように点てられなくなったら替える時期としています。店では、次のような状態になったら替える、と決めておくと判断がそろいます。
- 穂先が何本も折れている
- 濡らしても穂の形が戻らない
- 洗っても、においや黒い点が残る
電動の泡立て器・シェイカー・電動茶筅との違い
茶筅と電動の道具で、泡や味を比べた公的な資料は、編集部では見つけられませんでした。違いを決めるのは、店で実際に点てて比べた結果です。
審査では電動茶筅も使う
抹茶の品質の審査を説明した茶業研究報告では、審査に使う道具として茶筅を挙げ、電動茶筅(電気で穂を動かして点てる道具)を使うこともあるとしています。一方で、ミルクフォーマー(ミルクを泡立てるハンディの電動泡立て器)については触れていません。
カフェでの使い分け
ここからは編集部の考え方です。
| 道具 | 向いている場面 | 確かめること |
|---|---|---|
| 茶筅 | 抹茶を少量のお湯で点ててから、ミルクや氷に注ぐ | 浸す・乾かす手間と、替える頻度 |
| 電動茶筅・ミルクフォーマー | 忙しい時間帯に、同じ泡を早く作りたい | 茶筅で点てたものと味・泡・ダマを比べる |
| シェイカー | アイスで、粉をよく溶かしたい | 先にお湯で溶いてから振るか、粉のまま振るかで比べる |
アイスの抹茶ラテについて老舗とメーカーの公式レシピを比べたところ、粉を冷たいミルクに直接入れているものはなく、一保堂茶舗と伊藤園は抹茶を少量のお湯で先に溶いてからミルクに注いでいました。詳しくはアイス抹茶ラテの作り方にまとめています。
カフェで複数本を回すときの運用
一保堂茶舗は、使った茶筅を風通しのよいところで乾かすとしています。1本を一日中使い続けると、乾かす時間が取れません。ここからは、一保堂茶舗の手入れの案内をもとにした、編集部の運用の例です。
本数の決め方
- 開店中に使う茶筅と、乾かしている茶筅を分け、1日の中で同じ茶筅を休ませずに使い続けない
- 忙しい時間帯に使う本数に、乾かしている分と予備を足した本数をそろえる
- 同じ型(本数・竹・産地)でそろえ、どの茶筅で点てても同じ泡になるようにする
1日の流れ
- 開店前:その日に使う茶筅を水に1〜2分浸す。茶碗と一緒にお湯で温める
- 営業中:1杯ごとにお湯ですすぎ、粉を残さない。茶筅をミルクに入れない
- 閉店後:水ですすいで指で粉を落とし、くせ直しに立てて風通しのよい場所で乾かす
- 翌日:前日に使った茶筅は乾き具合を見て、乾いていなければ休ませた茶筅を使う
抹茶と一緒に確かめること
茶筅の手入れをそろえても、抹茶の等級や挽き方を変えると、泡や色が変わることがあります。ラテ向けの抹茶の選び方はカフェの抹茶ラテに使う抹茶の選び方、等級の違いは抹茶の等級にまとめています。Omakase Matchaは茶筅を扱っていませんが、宇治・八女・静岡・鹿児島・宮崎の産地の抹茶を1kgから扱っており、3種のサンプルで試せます。
輸入するときに確かめること:シンガポール・タイの植物検疫
茶筅は竹で作った製品なので、国によっては植物検疫(植物に付く病害虫を国に入れないための検査)の対象になることがあります。ただし、加工した竹製品の茶筅に植物検疫証明書が要るかを明記した公式の資料は、シンガポールとタイのどちらでも見つけられませんでした。
タイ
タイの農業協同組合省の告示(2007年)は、イネ科の植物のうち、バンブーサ属(Bambusa spp.)の竹を、どの部分も「制限品」としています。制限品は、タイ農業局の告示により、植物検疫所を通して輸入し、輸出国の機関が出した植物検疫証明書を付ける決まりです。
高山茶筌の材料に決められているハチク・クロチク・マダケは、この一覧には名前が載っていません。ただし、同じタイ農業局の告示は、禁止品・制限品のどちらにも当たらない「非禁止品」にも植物検疫証明書を付けるとしているため、一覧に載っていないことは証明書が要らないことを意味しません。また、日本の植物防疫所がまとめたタイの条件の要約では、植物検疫証明書を求める例に「干し柿、綿、タタミなどのその他植物生産物」が挙がっており、加工したものでも求められる例があります。茶筅を店で使う分として輸入する前に、タイ農業局(DOA)か通関業者に、品目と竹の種類を伝えて確かめます。
シンガポール
シンガポールでは、植物と植物製品の輸入を国立公園庁(NParks)が管理しています。NParksは、輸入の要件は個人・研究者・商業の輸入者のすべてに適用されるとし、品目ごとの要件を公式サイトで確かめるよう案内しています。品目別の分類(観賞用の植物、切り花、生鮮農産物など)に竹製品の項目はないため、輸入する前にNParksに、茶筅であること、材料の竹、加工のしかたを伝えて確かめます。抹茶そのものの輸入の手続きは、シンガポールに抹茶を輸入するにはにまとめています。
日本から送る側
日本の植物防疫所は、輸出する植物や物品が輸入国の求める条件に合っているかを検査しています。相手国が証明書を求める場合は、輸出前に植物防疫所に相談します。茶筅を抹茶と同じ荷物で送るときも、抹茶の書類とは別に、茶筅の扱いを確かめておきます。
参考にした情報
- 経済産業省「伝統的工芸品」 https://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/mono/nichiyo-densan/index.html
- 経済産業省「国が指定した伝統的工芸品244品目(2025年10月27日時点)」 https://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/mono/nichiyo-densan/xlsx/list_20251027.xlsx
- 伝統工芸 青山スクエア(一般財団法人 伝統的工芸品産業振興協会)「高山茶筌」 https://kougeihin.jp/craft/0625/
- 生駒市 記者会見資料「高山茶筌の匠の技、日本酒ペアリング、幻想的な夜の茶会」(2025年7月29日) https://www.city.ikoma.lg.jp/cmsfiles/contents/0000038/38735/20250729_04_.pdf
- 生駒市 報道資料「生駒市が全国に誇る『高山茶筌』小学校への茶道体験事業を実施します」(2017年5月31日) https://www.city.ikoma.lg.jp/cmsfiles/contents/0000010/10081/20170531PR_sadou_taiken.pdf
- 一保堂茶舗「Chasen (Matcha Whisk) Care」 https://ippodotea.com/blogs/recipes-to-brew-japanese-tea/chasen-pointers
- 一保堂茶舗「All About the Chasen - Matcha’s Most Important Tool」 https://ippodotea.com/blogs/ippodo-tea-blog/all-about-the-chasen
- 山政小山園 公式サイト(抹茶の点て方) https://www.yamamasa-koyamaen.co.jp/enjoy/2019/post/
- 山年園「抹茶用 ふげつ樹脂茶せんの販売を開始いたしました」(PR TIMES、2025年11月28日) https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000112.000063005.html
- 茶業研究報告 134号(2022)「抹茶の審査について」 https://www.jstage.jst.go.jp/article/cha/2022/134/2022_31/_pdf
- タイ農業協同組合省告示「植物検疫法に基づく制限品の指定」(仏暦2550年) https://assets.ippc.int/static/media/files/reportingobligation/2017/03/01/restriced_articles.pdf
- タイ農業局告示「禁止品・制限品・非禁止品の輸入または通過の基準・方法・条件」(仏暦2551年) https://assets.ippc.int/static/media/files/reportingobligation/2017/03/01/importation_or_bringing_in_transit_of_prohibited_restricted_and_unprohibited_articles.pdf
- 植物防疫所「各国の検疫条件 タイ王国」 https://www.maff.go.jp/pps/j/search/ekuni/as/thailand/index.html
- 植物防疫所「各国の検疫条件 シンガポール共和国」 https://www.maff.go.jp/pps/j/search/ekuni/as/singapore/index.html
- NParks「Import of plants or plant products」 https://www.nparks.gov.sg/services/import-plant-plant-products
- NParks「Check plant health import requirements」 https://www.nparks.gov.sg/services/import-plant-plant-products/check-plant-health-requirements
- 植物防疫所「輸出植物検疫」 https://www.maff.go.jp/pps/j/introduction/export/index.html
























































































