抹茶の見積もりを何社かから取ると、1kgの値段が大きく違うことがあります。値段の差は、原料の碾茶(てんちゃ:抹茶の原料になる茶葉)の値段、茶期、挽き方といった中身の違いと、日本から届くまでの費用の違いから生まれます。日本の統計と公的機関の資料で、それぞれが値段をどれだけ動かすかを確かめ、見積もりの比べ方までまとめました。
抹茶の値段は何で決まるか
抹茶の値段は、中身にかかる費用と、届くまでにかかる費用の2つで決まります。中身は原料の碾茶・茶期・挽き方・産地など、届くまでは輸出・輸送・輸入の税などです。
中身にかかる費用
中身のうち、公的な統計で値段が分かるのは原料の碾茶です。農林水産省は、お茶の価格は茶の種類による差と、茶期(ちゃき:その年の何回目に摘んだ茶か)による差が大きく、そこに品質による差が加わると説明しています。
中身の値段を動かすものは、次のとおりです。
| 項目 | 値段への影響 |
|---|---|
| 原料が碾茶か | 碾茶は覆いをかけて育てる分、煎茶より高い |
| 茶期 | 一番茶は二番茶の約2倍(碾茶、2025年産) |
| 挽き方 | 取材先の茶商の石臼は1台で1時間に約40g、JA京都やましろの機械の製造ラインは1日に約150kg |
| 産地・品種 | 産地や品種を指定すると、選べる原料が限られる |
| 有機 | 有機JASの茶園で育てた原料に限られる |
産地・品種・有機について、値段の差を示した公的な統計は見つかりませんでした。ここでは数字のある碾茶・茶期・挽き方を中心に見ていきます。
届くまでにかかる費用
日本の工場から出たあとは、輸出の手続き、輸送、輸入する国の関税と税、輸入者や卸の取り分が乗って、カフェの仕入れ値になります。どの費用を売り手が持つかは、見積もりの輸送条件で変わります。
原料の碾茶が高い理由
碾茶は、2025年産の全国の平均で1kg 8,562円と、煎茶の約4.9倍で取引されています。覆いをかけて育て、専用の炉で乾かす手間がかかるお茶です。
覆いをかけて育て、揉まずに乾かす
農林水産省によると、碾茶は、よしずや寒冷紗(かんれいしゃ:日光をさえぎる布)などで茶畑を2〜3週間ほど覆って育てた茶葉を摘み、蒸したあと揉まずに碾茶炉(てんちゃろ:碾茶を乾かす専用の炉)などで乾かして作ります。碾茶に切り替えるには、覆いの資材と、碾茶炉のある工場が要ります。作り方と切り替えに要る設備は、碾茶とはにまとめています。
碾茶の生産は増えています。2025年産は6,278トンで、2014年の約3.2倍になり、荒茶(あらちゃ:摘んだ茶葉を蒸して乾かした、仕上げ前のお茶)の生産量の8.6%を占めました。
茶期で値段が約2倍ちがう
農林水産省の資料(全国茶生産団体連合会調べ)による、2025年産の荒茶の値段は次のとおりです。
| 2025年産(全国) | 一番茶 | 二番茶 | 全茶期の平均 |
|---|---|---|---|
| 碾茶 | 10,030円 | 4,950円 | 8,562円 |
| 煎茶 | 2,278円 | 1,321円 | 1,746円 |
単位は1kgあたり。
同じ碾茶でも、一番茶は二番茶の約2倍の値段です。一番茶を多く使う抹茶ほど、原料の段階で高くなります。茶期と味の違いは抹茶のグレードの違いにまとめています。
2025年からは、この原料の値段そのものが上がりました。一保堂茶舗が京都府茶業会議所のデータから示した全農京都茶市場の取引平均単価では、抹茶原料の碾茶の一番茶が、2024年の1kg 5,402円から2026年は17,797円(6月19日時点)になっています。経緯は抹茶は今も足りないのかに書いています。
石臼で挽くと1台1時間に約40g
石臼で挽く抹茶は、1台で1時間に約40gしか作れません。機械の製造ラインとは、作れる量が大きく違います。
近畿農政局が2025年3月に取材した宇治市の茶商は、昔ながらの茶臼(ちゃうす:碾茶を挽く石臼)を1分間に53〜54回転させ、1台で1時間に約40gを挽いています。いまは80台の茶臼が昼夜動いていますが、代表は、製造が追いつかず注文を断っている状況だと話しています。
同じ取材で、宇治田原町のJA京都やましろの加工施設は、ビーズミル式と気流粉砕式の機械を使った自動の製造ラインで、抹茶を1日に約150kg作っています。
出典: 近畿農政局「世界的な抹茶需要に応えるため!宇治茶の産地での取り組み」 https://www.maff.go.jp/kinki/tiiki/kyoto/250304_ujichaseichakoujou.html
1台を仮に24時間回し続けても、40g×24時間で約960gです。石臼で挽いた抹茶を1kg作るには、1台ではまる1日以上かかる計算になります。
日本の表示基準では、石臼に準じた働きを持つ機械で挽いたものも、原料が碾茶なら抹茶です。機械で挽いた抹茶が抹茶でないわけではありません。石臼挽きの抹茶は、作れる量が限られます。取材先の茶商も、自社の茶臼挽きは高級品として認知されていると話しています。ラテに使う抹茶なら、挽き方を指定するかどうかは、サンプルを店のミルクで飲み比べてから決めても遅くありません。
日本からの輸出価格はいくらか
抹茶を含む粉末状の緑茶の輸出単価は、2022年の1kg 4,629円から、2026年1〜8月は9,971円になりました。4年足らずで2倍を超えています。
年ごとの輸出単価
日本の貿易統計には、抹茶だけの区分はありません。2019年から、緑茶の中に「粉末状のもの」という区分ができ、抹茶と粉末茶(茶を粉砕機などで粉にしたもの)がここに入ります。日本茶輸出促進協議会の集計から、粉末状の緑茶の1kgあたりの輸出単価を並べると次のとおりです。
| 年 | 世界全体 | 米国向け | タイ向け | シンガポール向け |
|---|---|---|---|---|
| 2023年 | 5,036円 | 5,469円 | 3,031円 | 4,728円 |
| 2024年 | 5,341円 | 5,823円 | 3,642円 | 6,248円 |
| 2025年 | 6,927円 | 6,778円 | 4,804円 | 8,148円 |
| 2026年1〜8月 | 9,971円 | 9,804円 | 8,840円 | 9,531円 |
単位は1kgあたり。2022年の世界全体は4,629円(輸出額147.3億円÷輸出量3,183トンで計算)。
出典: 日本茶輸出促進協議会「緑茶の国別・形状別輸出実績 2025年1〜12月」 https://nihon-cha.or.jp/export/wordpress/wp-content/uploads/2025-12_cha_export.pdf
タイ向けの粉末状の単価は、2023年から2026年1〜8月で約2.9倍になりました。2025年までは世界全体より低い単価でしたが、2026年1〜8月は世界全体との差が縮まっています。
輸出単価を相場として使わない
輸出単価は、輸出額を輸出量で割った平均です。農林水産省の資料では、2025年の粉末状の輸出単価6,927円は、その他の形の緑茶3,007円の約2.3倍でした。
一方で、6,927円は、2025年産の碾茶の一番茶の荒茶の値段(10,030円)より低い数字です。粉末状には粉末茶も含まれ、どの茶期の碾茶から作った抹茶かも区別されません。輸出された年と、原料の碾茶が作られた年も同じとは限りません。輸出単価は値段の動きを見る目安で、ある抹茶の見積もりが高いか安いかを決める物差しにはなりません。
輸入するときにかかる税
シンガポールでは抹茶に関税はかからず、タイでは関税割当の枠に入るかどうかで0%から90%まで変わります。輸入の税をどちらが払うかは、見積もりの輸送条件で決まります。
| シンガポール | タイ | |
|---|---|---|
| 関税 | かからない(関税がかかるのは酒類・たばこ・自動車・石油製品の4区分) | 割当の枠内30%、枠外90%。日タイ経済連携協定(JTEPA)を使うと枠内は免除(ジェトロ、2024年10月時点) |
| 輸入時の税 | GST(物品サービス税)9% | VAT(付加価値税)7%(2027年9月30日までの税率) |
シンガポールのGSTは、CIF価格(商品代・運賃・保険料の合計)、関税、手数料などの付随費用の合計にかかります。GST登録をしている会社が輸入許可の輸入者として名前が載っている場合は、払ったGSTを控除できます。手続きはシンガポールに抹茶を輸入するには、タイの関税割当とVATの扱いはタイに抹茶を輸入するにはにまとめています。
見積もりを比べるときは、輸送条件をそろえます。日本の港で引き渡すFOB、現地まで運ぶDAP、関税と税まで売り手が払うDDPでは、同じ抹茶でも見積もりの金額が変わります。条件ごとの違いは抹茶を卸で仕入れる方法に書いています。
1kgの値段を1杯の原価に直す
1杯の抹茶代は、1kgの値段÷1,000×1杯に使うグラム数で出せます。1kgで比べると大きく見える差も、1杯に直すと判断しやすくなります。
輸出単価で計算すると
参考に、抹茶を含む粉末状の緑茶の輸出単価を、1杯3gの抹茶代に直すと次のようになります。輸出の時点の平均の値段なので、運賃・税・卸の取り分は入っていません。
| 輸出単価 | 1kgあたり | 3gあたり |
|---|---|---|
| シンガポール向け(2025年) | 8,148円 | 約24円 |
| タイ向け(2026年1〜8月) | 8,840円 | 約27円 |
| 世界全体(2026年1〜8月) | 9,971円 | 約30円 |
カフェに届くまでには、ここに輸送費・輸入の税・卸の取り分が乗ります。1杯の値段に占める抹茶代を考えるときの出発点として使えます。
自分の見積もりで計算する
見積もりごとに、届くまでの費用を足した1kgあたりの値段を出してから、1杯の抹茶代を計算します。シンガポールでの計算例はシンガポールで業務用の抹茶パウダーを仕入れる方法に、ラテの配合と売価から逆算する方法はカフェの抹茶ラテに使う抹茶の選び方にまとめています。
1杯に使うグラム数も、値段と同じくらい原価を左右します。たとえば同じ抹茶を1杯3gから4gに増やすと、抹茶代は約1.3倍になります。
安すぎる「抹茶」が抹茶とは限らない理由
日本の表示基準では、碾茶を茶臼等で粉にしたものだけが抹茶です。相場より大きく安い粉は、原料や作り方が違う可能性があります。
日本茶業中央会の「緑茶の表示基準」は、抹茶を「碾茶を茶臼等で微粉末状に製造したもの」としています。茶を粉砕機などで粉にした粉末茶は、抹茶とは別の種類のお茶です。秋に作る碾茶などは「食品加工用碾茶」と呼び、もっぱら食品加工の原料に使うものとしています。
海外で売られている粉には、次のようなものが同じ「matcha」の名前で並ぶことがあります。
- 碾茶を挽いた抹茶(一番茶、二番茶以降、ブレンド)
- 煎茶などを粉にした粉末茶
- 抹茶や粉末茶に、砂糖・粉乳などを混ぜたラテミックス
輸出統計の「粉末状」に抹茶と粉末茶が両方入っているように、名前だけでは区別できません。抹茶と粉末茶の違いと、ラベルの見方はPure matcha(ピュア抹茶)とはに書いています。農研機構の調査では、値段の高い国産の抹茶ほど、アミノ酸の一種のテアニンが多い傾向がありました。成分での見分け方は抹茶のグレードの違いにあります。
見積もりを比べるときに確かめること
見積もりは、中身の条件と届くまでの条件をそろえてから、1杯あたりの抹茶代で比べます。1kgの値段だけを並べても、どこで差がついているかは分かりません。
中身の条件
| 項目 | 確かめること |
|---|---|
| 原料 | 碾茶か。原材料の表示 |
| 茶期 | 一番茶だけか、二番茶以降を含むか、その割合 |
| 産地・品種 | 都道府県と、合わせたものならその内訳 |
| 挽き方 | 石臼か、機械か |
| 有機 | 有機JASなど、認証の有無と証明書 |
| ロットと書類 | ロット番号、分析証明書(COA)、残留農薬の検査結果 |
届くまでの条件と、値段の見直し
| 項目 | 確かめること |
|---|---|
| 輸送条件 | FOB・DAP・DDPのどれか。関税と輸入の税を誰が払うか |
| 最低量と荷姿 | 1回に買える最低の量、1袋の量 |
| 値段の見直し | 値段がいつまで有効か。次の新茶期のあとに見直すか |
抹茶の値段は、その年の碾茶の取引価格で動きます。一保堂茶舗も、2026年産の取引価格を受けて、2026年10月・11月に商品の価格を改定すると発表しています。年間に使う量と、値段を見直す時期を、契約の前に仕入れ先と決めておくと、急な値上げに備えられます。
Omakase Matchaの場合
Omakase Matchaは、宇治・八女・鹿児島・静岡・宮崎の産地から直接仕入れた抹茶を、1kgから卸しています。シンガポールへはDDP、タイとインドネシアへはDAPで届け、支払いはWiseまたはPayPalでの前払いです。産地ごとの特徴は抹茶の産地にあります。見積もりの前に味を確かめたい場合は、3種類までサンプル請求ができます。
参考にした情報
- 農林水産省「茶をめぐる情勢(令和8年10月)」 https://www.maff.go.jp/j/seisan/tokusan/cha/attach/pdf/ocha-201.pdf
- 近畿農政局「世界的な抹茶需要に応えるため!宇治茶の産地での取り組み」(取材2025年3月) https://www.maff.go.jp/kinki/tiiki/kyoto/250304_ujichaseichakoujou.html
- 日本茶輸出促進協議会「緑茶の国別・形状別輸出実績 2023年1〜12月」 https://nihon-cha.or.jp/export/wordpress/wp-content/uploads/2023-12_cha_export.pdf
- 日本茶輸出促進協議会「緑茶の国別・形状別輸出実績 2024年1〜12月」 https://nihon-cha.or.jp/export/wordpress/wp-content/uploads/2024-12_cha_export.pdf
- 日本茶輸出促進協議会「緑茶の国別・形状別輸出実績 2025年1〜12月」 https://nihon-cha.or.jp/export/wordpress/wp-content/uploads/2025-12_cha_export.pdf
- 日本茶輸出促進協議会「緑茶の国別・形状別輸出実績 2026年1〜8月」 https://nihon-cha.or.jp/export/wordpress/wp-content/uploads/2026-08_cha_export.pdf
- 一保堂茶舗「2026年10月・11月 商品仕様の見直しと価格改定について」(2026年9月1日) https://www.ippodo-tea.co.jp/blogs/news/20260901
- 日本茶業中央会「緑茶の表示基準」 https://www.nihon-cha.or.jp/pdf/hyoujikijyun.pdf
- 農研機構「国産抹茶の価格と化学成分含有量の関係」 https://www.naro.go.jp/project/results/4th_laboratory/nifts/2018/nifts18_s16.html
- Singapore Customs「Duties and Dutiable Goods Overview」 https://www.customs.gov.sg/doing-business/valuation-duties-and-fees/duties-and-dutiable-goods/duties-and-dutiable-goods-overview/
- IRAS「Current GST Rates」 https://www.iras.gov.sg/taxes/goods-services-tax-(gst)/basics-of-gst/current-gst-rates
- IRAS「Importing of Goods」 https://www.iras.gov.sg/taxes/goods-services-tax-(gst)/claiming-gst-(input-tax)/importing-of-goods
- ジェトロ「茶の輸入規制、輸入手続き(タイ)」 https://www.jetro.go.jp/world/asia/th/foods/exportguide/greentea.html
- タイ歳入局 プレスリリース18/2569 https://www.rd.go.th/fileadmin/user_upload/news/2569thai/news18_2569.pdf
























































































