抹茶は、碾茶(てんちゃ)という茶葉を石臼などで細かく挽いた粉です。碾茶は、煎茶や紅茶と同じ茶の木(チャノキ)の葉を、摘む前に2〜3週間ほど覆って育て、蒸してから揉まずに乾かしたもので、「抹茶の木」という別の植物はありません。この記事では、日本の表示の基準、国際規格、国と府県の研究機関の資料をもとに、抹茶の原料と作り方、緑茶との違いの要点を順に見ていきます。
抹茶は何から作られるか
抹茶の原料は碾茶という茶葉だけで、砂糖やミルクは入っていません。業界の表示の基準と国際規格が、どちらも抹茶をこの作り方で定めています。
日本の表示の基準での定義
日本茶業中央会の「緑茶の表示基準」(業界の自主基準、2026年7月10日最終改正)は、抹茶を「碾茶を茶臼等で微粉末状に製造したもの」と定めています。碾茶は、摘む前に棚などを使い、よしず・こも・寒冷紗(かんれいしゃ:日よけの網)で茶園を2〜3週間ほど覆い、そこで摘んだ茶葉を蒸して、揉まずに碾茶炉などで乾かしたものです。
国際規格での定義
国際規格ISO 20715:2023(茶の種類の分類)も、matcha tea を、日陰で育てた若い葉や芽を蒸して酵素の働きを止め、揉まずに乾かし、細かく挽いて粉にした茶としています。ISOには抹茶だけを扱う技術報告書ISO/TR 21380:2022(Matcha tea — Definition and characteristics)もあり、香りや味を付けた抹茶や、ほかの茶と混ぜた抹茶はその対象から外しています。
砂糖や粉乳を混ぜたラテ用の粉は、原材料に抹茶が入っていても抹茶そのものではありません。見分け方はPure matcha(ピュア抹茶)とはで詳しく取り上げています。
抹茶の木はない:煎茶や紅茶と同じチャノキ
抹茶専用の木はなく、抹茶も煎茶も紅茶も、チャノキ(学名 Camellia sinensis)という同じ植物の葉から作ります。違いは、育て方と摘んだあとの加工にあります。
表示基準とISOが示す植物
緑茶の表示基準は、「茶」をツバキ科カメリア属の Camellia sinensis の植物(「チャ」)から作ったものと定めています。
出典: 日本茶業中央会「緑茶の表示基準」 https://www.nihon-cha.or.jp/pdf/hyoujikijyun.pdf
ISO 20715も、緑茶・紅茶・烏龍茶などを、Camellia sinensis から作る茶として種類ごとに分けています。ハーブや果物から作る飲み物は、「ティー」と呼ばれていても対象外です。
| 茶の種類(ISO 20715の英語名) | ISOの定義にある主な工程 |
|---|---|
| 緑茶(green tea) | 酵素の働きを止め、揉むなどして乾かす |
| 抹茶(matcha tea) | 日陰で育て、蒸して揉まずに乾かし、細かく挽く |
| 紅茶(black tea) | しおれさせ、揉み、酸化させて乾かす |
| 烏龍茶(oolong tea) | しおれさせ、一部を酸化させてから酵素の働きを止め、揉んで乾かす |
| 白茶(white tea) | 芽や若い葉を摘み、しおれさせて乾かす |
ISOの抹茶の定義は var. sinensis
ISO 20715は、抹茶をチャノキの変種 var. sinensis の葉から作るものと定めています。インドネシア語で「pohon matcha(抹茶の木)」、英語で「matcha tree」と検索されることがありますが、答えはこのチャノキです。
茶園では覆った新芽を摘む
碾茶に使うのは、覆って育てたチャノキの新芽です。農研機構の被覆茶のマニュアルは、碾茶向けの覆い方として、黒い寒冷紗を茶の木の列(うね)に直接かける方法を示しています。
原料の葉「碾茶」とは
碾茶は、抹茶になる前の、まだ粉にしていない葉の状態の茶で、日本の荒茶(あらちゃ:摘んで最初に加工した茶)の8.6%を占めます。英語の「matcha leaves」、インドネシア語の「daun matcha」にあたるのがこの碾茶です。
荒茶の1割弱で、値段は煎茶の約4.9倍
農林水産省の「茶をめぐる情勢」によると、2025年産の荒茶のうち碾茶は8.6%、全茶期平均の荒茶の値段は1kgあたり8,562円で、煎茶の約4.9倍でした。値段がどう決まるかは抹茶の値段はどう決まるのかにまとめています。
どの品種でも作れる
農研機構の被覆茶のマニュアルは、碾茶はどの品種でも作れ、「さみどり」「おくみどり」「やぶきた」がよく使われるとしています。府県ごとに碾茶に向くとしている品種は、生産者向けの碾茶とはで一覧にしています。
食品加工用の碾茶もある
表示基準は、秋に摘んだ秋碾茶などを碾茶炉などで揉まずに乾かした茶葉を「食品加工用碾茶」と呼び、もっぱら食品加工の原料に使うものとしています。農研機構が公開している茶の品種と加工技術のマニュアル(2019年)では、抹茶の生産の約95%が加工食品用、残りの5%が茶道用と推計されています。
抹茶の作り方:覆って育て、蒸して揉まずに乾かし、挽く
抹茶は、茶園を覆う、摘む、蒸す、碾茶炉で乾かす、茎などを分ける、挽くという順で作られます。煎茶と違うのは、摘む前に覆うことと、揉まずに乾かすことです。
| 工程 | すること | 公的な資料の説明 |
|---|---|---|
| 1. 覆う | 摘む前に茶園を覆って日光を遮る | 2〜3週間程度(表示基準)、直がけは一番茶で20日間以上・遮光率85%(農研機構) |
| 2. 摘む | 覆った茶園の新芽を摘む | 覆った茶園(覆下茶園)から摘む(表示基準) |
| 3. 蒸す | 蒸気で葉の酵素の働きを止める | 新芽を15秒程度蒸す(京都府茶業研究所) |
| 4. 乾かす | 揉まずに碾茶炉で乾かす | 揉まないで碾茶炉等で乾燥(表示基準) |
| 5. 分ける | 茎などを分けて葉の部分を残す | 製造ラインに木茎分離機・風選機がある(京都府茶業研究所) |
| 6. 挽く | 石臼などで細かい粉にする | 茶臼等で微粉末状に(表示基準) |
出典: 農食事業26099コンソーシアム「日本茶業の活性化に資する茶品種育成とその栽培・加工技術マニュアル」(2019年3月)p.23 京都府農林水産技術センター農林センター茶業研究所 https://www.naro.go.jp/PUBLICITY_REPORT/publication/files/nifts_teaikusei_pamph201903031.pdf
碾茶炉で揉まずに乾かす
表示基準によると、碾茶炉は、蒸した葉を広げてコンベアに載せ、トンネルのような乾燥室を通すあいだに、熱と熱風で乾かす装置です。乾燥室には通常3〜5段のコンベアがあります。煎茶の工場のように葉を揉む機械を通さずに乾かすのが、碾茶づくりの特徴です。レンガ製でない碾茶機も、同じ働きがあれば碾茶炉に含まれます。
茎などを分けてから挽く
乾いた碾茶からは、木茎分離機や風選機(風で軽いものと重いものを分ける機械)で茎などを分けます。残った葉の部分を石臼などで挽いて、抹茶にします。
挽き方:石臼は1台1時間に約40g
石臼で挽く抹茶は1台で1時間に約40gで、機械の製造ラインとは作れる量が大きく違います。どちらで挽いても、原料が碾茶で、石臼に準じた働きを持つ機械なら抹茶と呼べます。
石臼と機械の製造ライン
近畿農政局が2025年3月に取材した宇治市の茶商は、茶臼(ちゃうす:碾茶を挽く石臼)を1分間に53〜54回転させ、1台で1時間に約40gを挽いています。同じ取材で、宇治田原町のJA京都やましろの加工施設は、ビーズミル式と気流粉砕式の機械を使った自動の製造ラインで、抹茶を1日に約150kg作っています。
表示基準の「茶臼等」
表示基準は、茶臼を碾茶を微粉末にする石臼とし、粉にする方法は問わず、石臼に準じた働きを持つものも「茶臼等」に含めています。挽き方による粒の細かさや色の違いは抹茶のグレードの違い、石臼挽きの値段への影響は抹茶の値段はどう決まるのかで取り上げています。
覆うと何が変わるか:旨味と緑色
覆って育てると、旨味のもとのアミノ酸が葉にたまり、渋みのもとのタンニン類ができにくくなり、覆い香と呼ばれる香りが出ます。この成分の差で、抹茶と粉末茶を分析で見分けることもできます。
旨味が増え、渋みが減る
京都府茶業研究所は、碾茶は遮光栽培により、うま味・甘みのアミノ酸類が新芽にたまり、渋み・苦みのタンニン類ができにくくなり、覆い香が生まれると説明しています。農研機構のマニュアルは、覆い香を「青海苔様の香り」としています。
抹茶と粉末茶は成分で分けられる
農研機構の2018年の研究では、抹茶は煎茶に比べてテアニン(旨味のもとのアミノ酸)などのアミノ酸が多く、国内産地の抹茶56試料のうちテアニンが1%以下だったのは1試料でした。市販の粉末茶6試料には、テアニンが1%を超えるものはありませんでした。緑色の指標(クロロフィル=葉緑素と関係の深い値)も、抹茶は全試料が一定の値以上で、粉末茶は1つも届きませんでした。この研究はISOの抹茶の定義づくりにも使われています。
覆うことの負担
覆って育てると日光が足りず、茶の木が弱って収量や品質が安定しにくくなるおそれがあると、農研機構のマニュアルは書いています。覆う作業に手間がかかり重労働であることも、課題に挙げています。
緑茶(煎茶)・粉末茶との違いの要点
抹茶は緑茶の一種で、同じチャノキの葉から作る煎茶とは、覆うか、揉むか、粉ごと飲むかの3点が違います。煎茶などを粉にしたものは粉末茶で、抹茶ではありません。
| 抹茶 | 煎茶 | 粉末茶 | |
|---|---|---|---|
| 原料の茶葉 | 碾茶(覆って育て、揉まずに乾かす) | 覆わずに育て、蒸して揉んで乾かす | 茶(煎茶など) |
| 粉にする方法 | 茶臼(石臼)など | 粉にしない | 粉砕機など |
| 飲み方 | 粉を溶かし、茶葉ごと飲む | お湯を注ぎ、出たお茶を飲む | 粉を溶かして飲む |
成分・カフェイン・値段の比べ方は抹茶と緑茶(煎茶)の違いで詳しく取り上げています。
抹茶の原料はどこで作られているか
抹茶の原料の碾茶は、鹿児島県が全国の4割強を作り、京都府、静岡県が続きます。抹茶の産地として宇治や西尾がよく知られていますが、量では九州が大きな割合を占めます。
2025年産の碾茶の生産量
愛知県がまとめた全国茶生産団体連合会の調査数値では、2025年産の碾茶は全国で6,278トンでした。
| 府県 | 2025年産の碾茶の生産量 |
|---|---|
| 鹿児島県 | 2,670トン |
| 京都府 | 989トン |
| 静岡県 | 875トン |
| 愛知県 | 463トン |
| 三重県 | 398トン |
| 宮崎県 | 304トン |
| 福岡県 | 280トン |
生産量は2014年の約3.2倍
農林水産省は、需要の高まりを受けて碾茶の生産が増え、2025年産は2014年産の約3.2倍になったとしています。産地ごとの違いは抹茶の産地、宇治抹茶とは、鹿児島の抹茶とはにまとめています。
仕入れで原料を確かめる項目
抹茶を仕入れるときは、原材料が碾茶だけか、碾茶がどこで作られたか、どう挽いたか、いつ摘んだかを仕入れ先に確かめます。緑色の粉には、粉末茶や砂糖入りのミックスもあるためです。
仕様書で確かめること
- 名称と原材料:抹茶か、粉末茶か、砂糖や粉乳の入ったミックスか
- 原料の碾茶の産地(府県)
- 挽き方:石臼か、機械か
- 茶期:一番茶か、二番茶以降や秋に摘んだものか
サンプルで確かめること
色・香り・味は、同じ条件で点てて比べると違いが分かります。比べ方は抹茶の品質の見分け方にまとめています。Omakase Matchaは宇治・八女・鹿児島・静岡・宮崎の産地から直接仕入れた抹茶を扱い、サンプルを3種類までお送りしています。
参考にした情報
- 日本茶業中央会「緑茶の表示基準」(令和8年7月10日最終改正) https://www.nihon-cha.or.jp/pdf/hyoujikijyun.pdf
- ISO 20715:2023 Tea — Classification of tea types(プレビュー) https://cdn.standards.iteh.ai/samples/75419/b937ca9e8b964f538549fe9a8cae15b5/ISO-20715-2023.pdf
- ISO/TR 21380:2022 Matcha tea — Definition and characteristics https://www.iso.org/standard/80777.html
- 農研機構「被覆茶安定生産マニュアル」(2018年) https://www.naro.go.jp/PUBLICITY_REPORT/publication/files/hihukucha-antei_man201803.pdf
- 農食事業26099コンソーシアム「日本茶業の活性化に資する茶品種育成とその栽培・加工技術マニュアル」(2019年3月) https://www.naro.go.jp/PUBLICITY_REPORT/publication/files/nifts_teaikusei_pamph201903031.pdf
- 農研機構「国産抹茶の価格と化学成分含有量の関係」(2018年) https://www.naro.go.jp/project/results/4th_laboratory/nifts/2018/nifts18_s16.html
- 農林水産省「茶をめぐる情勢(令和8年10月)」 https://www.maff.go.jp/j/seisan/tokusan/cha/attach/pdf/ocha-201.pdf
- 農林水産省 近畿農政局「世界的な抹茶需要に応えるため!宇治茶の産地での取り組み」 https://www.maff.go.jp/kinki/tiiki/kyoto/250304_ujichaseichakoujou.html
- 愛知県「2025年産茶の生産状況」(全国茶生産団体連合会調査数値) https://www.pref.aichi.jp/uploaded/attachment/622005.pdf
























































































