海外のカフェや通販では、「Uji matcha」と並んで「Kagoshima matcha」と書かれた抹茶をよく見かけます。英語の解説記事には「鹿児島は静岡に次ぐ2位の茶どころ」と書かれたものが多いものの、国の統計では、鹿児島県は2024年産から茶の生産量で1位です。抹茶の原料に限れば、それより前から1位でした。量・産地・品種・作り方と、仕入れのときに確かめることは、鹿児島県と国の資料で確かめられます。
鹿児島の抹茶とは
鹿児島県は、抹茶の原料になる碾茶(てんちゃ)の生産量が全国1位の県です。2025年産の碾茶は2,670トンで、全国の約43%を占めました。一方で、「鹿児島の抹茶」という名前の使い方を決めた定義や商標は、2026年10月時点で見つかっていません。
碾茶と抹茶の関係
碾茶は、摘む前に茶畑に覆いをかけて日光をさえぎって育てた新芽を蒸し、揉まずに乾かした茶葉です。これを臼などで細かく挽いたものが抹茶です。統計で産地ごとに数えられているのは碾茶の量で、抹茶そのものの県別の量を示した全国の統計は見つかりませんでした。碾茶の作り方は碾茶とはにまとめています。
府県別の碾茶(2025年産)
全国茶生産団体連合会の調べでは、2025年産の碾茶は全国で6,278トンでした。
| 府県 | 碾茶 | 全国の割合 | 荒茶全体 | 荒茶に占める碾茶 |
|---|---|---|---|---|
| 鹿児島 | 2,670トン | 約43% | 30,000トン | 約9% |
| 京都 | 989トン | 約16% | 2,121トン | 約47% |
| 静岡 | 875トン | 約14% | 24,100トン | 約4% |
| 愛知 | 463トン | 約7% | 561トン | 約83% |
| 三重 | 398トン | 約6% | 4,805トン | 約8% |
| 宮崎 | 304トン | 約5% | 3,109トン | 約10% |
| 福岡 | 280トン | 約4% | 1,486トン | 約19% |
割合は全国茶生産団体連合会の数字から計算。荒茶(あらちゃ)は、摘んだ葉を産地の工場で蒸して乾かした、仕上げ前の茶です。鹿児島県の碾茶は京都府の約2.7倍ありますが、県の茶全体から見ると1割弱です。県の茶の多くは、今も煎茶や、飲料の原料になる番茶です。荒茶全体の都道府県別の順位はお茶の生産量ランキングにまとめています。
碾茶が増えた経緯
鹿児島県の碾茶は、2014年ごろから工場が増え始め、2020年に京都府を抜いて全国1位になりました。京都府は、鹿児島県が煎茶から碾茶への切り替えを急速に進めたと書いています。
工場の数と量の動き
鹿児島県の計画(2019年3月)によると、県内の碾茶工場は2014年度の3工場から2018年度の13工場に増え、碾茶の量は50トンから754トンになりました。工場があったのは南九州市・霧島市・志布志市です。県の別の資料(2018年3月)には、2014年以降に碾茶を作り始めた生産者が多いと書かれています。2019年3月の計画には、鹿児島県茶市場に碾茶が初めて上場されたことも書かれています。
県の統計(秋に作る碾茶を含む)では、県内の碾茶は次のように増えました。
| 年 | 鹿児島県の碾茶 |
|---|---|
| 2015年 | 50トン |
| 2020年 | 1,210トン |
| 2023年 | 2,260トン |
| 2024年 | 3,410トン |
| 2025年 | 4,610トン |
この表の数字は秋に作る碾茶を含むため、上の全国茶生産団体連合会の2,670トンとは数え方が違います。
切り替えが進んだ理由
鹿児島県の資料(2026年6月)は、煎茶や玉露の値段が低迷する一方で、碾茶は量が増える中でも単価が上がったとしています。県のアンケートでは、煎茶は作る量を減らしたい生産者がいる一方、碾茶では約2割が増やしたいと答えました。2026年4月にも、鹿児島市の松元地域で2つの法人が新しい碾茶工場を動かし始めています。
碾茶を作っている市町
鹿児島県の碾茶は、志布志市・南九州市・霧島市の3市で9割強が作られています。荒茶全体では南九州市が県の約半分を占めますが、碾茶では大隅半島の志布志市がいちばん多くなっています。
市町別の碾茶(2025年度)
| 市町 | 碾茶 | 県内の割合 | 荒茶全体 |
|---|---|---|---|
| 志布志市 | 2,134トン | 約46% | 4,542トン |
| 南九州市 | 1,655トン | 約36% | 14,545トン |
| 霧島市 | 560トン | 約12% | 2,335トン |
| 日置市 | 134トン | 約3% | 778トン |
| 鹿児島市 | 96トン | 約2% | 940トン |
秋に作る碾茶を含む県の統計。割合は県の合計4,610トンから計算。
出典: 鹿児島県「令和8年度茶業振興対策資料」 https://www.pref.kagoshima.jp/ag06/chagyoshinkou/documents/87621_20260918162127-1.pdf
地域ごとの特徴
鹿児島県の計画は、地域ごとの茶づくりを次のように書いています。
- 南薩地域(南九州市など):広い畑地があり、茶の栽培面積と荒茶の生産量がどちらも県内の約5割。碾茶・玉露など多様な茶を作る
- 大隅地域(志布志市など):深蒸し煎茶の産地で、碾茶づくりや輸出に取り組む経営体が増えている。志布志港の海外航路を使える
- 姶良・伊佐地域(霧島市など):中山間地が多く、有機栽培による碾茶づくりが広がっている
南九州市の知覧は「知覧茶」、霧島市は「霧島茶」の名前で知られる産地です。
鹿児島の品種
鹿児島県では、全国で6割を超える「やぶきた」が3割を切り、覆いをかける栽培に向く「さえみどり」が増えています。県は、さえみどりへの切り替えが碾茶への転換に向いていると説明しています。
品種の構成
| 品種 | 鹿児島(2005年度) | 鹿児島(2025年度) | 全国(2024年度) |
|---|---|---|---|
| やぶきた | 42% | 28% | 64% |
| ゆたかみどり | 27% | 25% | 7% |
| さえみどり | 5% | 16% | 6% |
| あさつゆ | 5% | 5% | — |
| おくみどり | 4% | 5% | 4% |
鹿児島県の資料(栽培面積の割合)。2025年度のさえみどりは1,305ヘクタールで、2000年の207ヘクタールから約6倍になりました。
出典: 鹿児島県「鹿児島県茶業をとりまく現状と課題」(2026年6月) https://www.pref.kagoshima.jp/ag06/chagyoshinkou/documents/130225_20260827174720-1.pdf
県の品種の説明
鹿児島県の品種特性の表では、主な品種を次のように説明しています。緑茶用の品種としての説明で、抹茶にしたときの評価ではありません。
| 品種 | 摘む時期(やぶきたと比べて) | 県の説明 |
|---|---|---|
| さえみどり | 4日早い | アミノ酸が多くカテキンが少なく、甘みを感じる |
| ゆたかみどり | 5日早い | 渋みが強いが、覆いと蒸し方で品質を上げられる |
| あさつゆ | 2日早い | 覆いと深蒸しで、青みの強い色と濃い味になる |
| おくみどり | 5日遅い | 上品な高い香りとうま味 |
2026年5月14日の鹿児島県茶市場の碾茶の入札会では、南九州市産のさえみどりの碾茶が1kgあたり47,100円で落札されました。落札した新原製茶は、これを史上最高額と発表しています。農林水産省は、品種を組み合わせると摘む時期が分かれ、収穫と加工の作業が一時に集中するのを避けられるとしています。鹿児島県は、早生・中生の品種に分散した構成が工場の効率的な運営につながっていると書いています。
機械化と大規模化
鹿児島県の茶畑は、ほぼすべてで乗って運転する摘採機(茶を摘む機械)が使われています。農林水産省の資料では、2025年度の乗用型摘採機の導入割合は鹿児島県が99.0%、京都府は22.9%でした。
平らな茶畑と大きな工場
鹿児島県は中山間地の茶畑の割合が45.6%で、京都府の85.1%より低くなっています(2020年)。農林水産省は、鹿児島県は中山間地でも傾斜が小さく、ほとんどの地域で乗用型の機械が使えると書いています。鹿児島県の茶農家1戸あたりの栽培面積は3.6ヘクタールで、ほかの主な産地の約2倍です(2020年)。
鹿児島県の資料に載っている日本茶業中央会の数字では、2024年の碾茶工場は鹿児島県が19、京都府が90でした。同じ資料の2024年の碾茶(鹿児島県2,150トン、京都府1,068トン)で割ると、1工場あたりの碾茶は鹿児島県が約113トン、京都府が約12トンで、約9.5倍の差があります。
機械化が進んでいない作業
鹿児島県は、摘む作業や農薬をまく作業は機械が普及している一方で、茶畑に覆いをかける作業と草取りは機械の普及率が低いとしています。茶畑の管理にかかる時間のうち18%が覆いをかける作業です。県は、覆いと草取りの重い作業が規模を広げる妨げになっていると書いています。
有機栽培の割合
有機JASの認証を受けた全国の茶畑のうち、52%が鹿児島県にあります(2025年)。有機JASは、農薬や化学肥料を使わずに育てたことを国の基準で認証する制度です。鹿児島県の有機JASの茶畑は、2018年の493ヘクタールから2024年の926ヘクタールに増えました。
輸出に占める有機と抹茶
鹿児島県の資料によると、2024年の県の茶の輸出額は63.4億円でした。金額の87%が米国向けで、輸出額のうち69%が抹茶・碾茶、43%が有機栽培茶でした。農林水産省の資料でも、2025年に米国へ輸出した緑茶の62.8%が有機の茶でした。県は、有機栽培の茶は欧米で需要が高く、輸出先の残留農薬の基準にも合わせやすいとしています。
有機の碾茶の手間
有機栽培では草取りの時間が増え、県の調べでは荒茶の収量が慣行栽培より少なくなります。2018年の県の構想は、有機栽培の碾茶は覆う期間が長いため、茶の木の勢いを保つ工夫が要ると書いています。有機の抹茶を選ぶときは、有機JASの証明が碾茶の段階だけでなく、抹茶に挽いた工場まで続いているかを確かめます。
鹿児島の碾茶の値段
鹿児島県の茶の値段は2025年に大きく上がり、2026年産の一番茶も前年の約2倍で取引されました。ただし、鹿児島県茶市場の碾茶だけの平均単価は、公開されている資料では確認できませんでした。
公的な資料で確認できる値段
| 項目 | 値段 | 出典 |
|---|---|---|
| 全国の碾茶(2025年産、一番茶) | 1kgあたり10,030円 | 農林水産省(全国茶生産団体連合会調べ) |
| 全国の碾茶(2025年産、二番茶) | 1kgあたり4,950円 | 同上 |
| 鹿児島県茶市場の一番茶(茶全体) | 2024年1,468円→2025年2,146円 | 鹿児島県(入札単価、税抜き) |
| 鹿児島県茶市場の年間平均(茶全体) | 2024年889円→2025年1,934円 | 同上 |
| 鹿児島県の一番茶(2026年産、茶全体) | 前年の約2倍 | 農林水産省 |
| 鹿児島県茶市場の碾茶の入札会(2026年5月14日) | 1つのロットの落札額が1kgあたり47,100円 | 落札した新原製茶の発表 |
47,100円は1つのロットの落札額で、平均ではありません。値段が上がった理由と、カフェの仕入れへの影響は抹茶は今も足りないのかにまとめています。
宇治との違い
量・機械摘みの割合・品種・名前の決まりははっきり違いますが、味の優劣を示す公的なデータはありません。英語の販売店の記事には、鹿児島の抹茶の味を「甘い」「苦みが少ない」などと書くものがありますが、書き方は記事によって違い、根拠になる比較の試験は示されていません。
公的な資料で比べられること
| 項目 | 鹿児島 | 京都(宇治抹茶の主な産地) |
|---|---|---|
| 碾茶(2025年産) | 2,670トン | 989トン |
| 荒茶に占める碾茶 | 約9% | 約47% |
| 乗用型摘採機の導入割合(2025年度) | 99.0% | 22.9% |
| 中山間地の茶畑の割合(2020年) | 45.6% | 85.1% |
| 碾茶工場(2024年) | 19 | 90 |
| やぶきたの割合 | 28%(2025年度) | 53%(2024年度) |
| 有機JASの茶畑(2024年) | 926ヘクタール | 62ヘクタール |
| 名前の決まり | 抹茶の地域団体商標はない | 地域団体商標「宇治抹茶」 |
数字は府県全体。宇治抹茶は、京都・奈良・滋賀・三重の茶を京都府内の業者が府内で仕上げた抹茶につく名前です。詳しくは宇治抹茶とはに、福岡の八女は八女抹茶とはにまとめています。
数字から読めること
鹿児島県は、傾斜の小さい広い茶畑で機械で摘み、大きな工場で碾茶を作る産地です。京都府は中山間地が多く、乗用型の摘採機を使う茶畑は2割強にとどまります。量の確保を重視するなら、鹿児島の碾茶は候補になりやすいと言えます。ただし、同じ鹿児島でも、覆いのかけ方、品種、一番茶か二番茶か、有機かどうかで品質と値段は変わります。
海外で「Kagoshima matcha」を買うときに確かめること
「Kagoshima」と書いてあっても、碾茶が鹿児島産なのか、抹茶に挽いたのも鹿児島なのかは商品ごとに違います。鹿児島県の資料では、2025年度の碾茶2,670トンに対し、県内で作られた抹茶は258トンでした。県の茶のうち荒茶のまま県外に出る割合は73%です。県は2018年の資料で、碾茶の多くが県外の茶商との契約で出荷されていると書いています。
名前と表示のきまり
- 特許庁の地域団体商標:鹿児島県の茶では「知覧茶」「かごしま知覧茶」(権利者は南さつま農業協同組合)、「霧島茶」(あいら農業協同組合)などがあります。指定商品は、知覧茶が知覧町産の緑茶・煎茶・粉茶など、霧島茶が霧島市で作った緑茶で、「○○抹茶」という名前の鹿児島の地域団体商標は一覧にありません
- 鹿児島県の検討:県は「かごしま抹茶」の栽培・加工方法の定義、品質基準、ロゴ、商標登録を検討しています(2026年8月の骨子案)
- 産地の表示:日本茶業中央会の「緑茶の表示基準」(業界の自主基準)では、産地の名前を表示するには、その産地の原料を50%以上使う必要があります。100%でなければ、ブレンドだと分かるように書きます
仕入れ先に確かめること
- 碾茶の産地:鹿児島県のどの市町か(志布志・南九州・霧島など)
- 抹茶に挽いた場所:鹿児島県内か、県外の工場か
- 鹿児島の原料の割合:100%か、ほかの産地とのブレンドか
- 品種と茶期:さえみどりなどの品種、一番茶か二番茶か
- 有機と書いてあれば:有機JASなどの証明が、抹茶にした工場まで続いているか
カフェで選ぶときの順番
ラテに使うか、そのまま点てて出すかで、合う等級が変わります。用途を決めてから(抹茶の等級の違い)、1杯の原価から使える仕入れ値を出し(カフェの抹茶ラテに使う抹茶の選び方)、鹿児島と宇治・八女など別の産地のものを、同じ量・同じミルクで飲み比べます。Omakase Matchaが扱う産地は抹茶の産地にまとめています。
参考にした情報
- 愛知県「2025年産茶の生産状況」(全国茶生産団体連合会調査) https://www.pref.aichi.jp/uploaded/attachment/622005.pdf
- 京都府「京都府茶業振興計画」(2025年3月) https://www.pref.kyoto.jp/nosan/documents/2025kyoto_chagyousinkoukeikakui.pdf
- 農林水産省「茶をめぐる情勢(令和8年10月)」 https://www.maff.go.jp/j/seisan/tokusan/cha/attach/pdf/ocha-201.pdf
- 鹿児島県「鹿児島県茶業をとりまく現状と課題」(2026年6月) https://www.pref.kagoshima.jp/ag06/chagyoshinkou/documents/130225_20260827174720-1.pdf
- 鹿児島県「『かごしま茶』振興ビジョン(仮称)骨子案」(2026年8月) https://www.pref.kagoshima.jp/ag06/chagyoshinkou/documents/130225_20260827165208-1.pdf
- 鹿児島県「令和8年度茶業振興対策資料」 https://www.pref.kagoshima.jp/ag06/chagyoshinkou/documents/87621_20260918162127-1.pdf
- 鹿児島県「『かごしま茶』未来創造プラン」(2019年3月) https://www.pref.kagoshima.jp/ag06/documents/71400_20190325223604-1.pdf
- 鹿児島県「かごしま有機抹茶輸出促進基本構想」(2018年3月) https://www.pref.kagoshima.jp/ag06/documents/64999_20180327123259-1.pdf
- 鹿児島県 鹿児島地域振興局「令和8年4月(まつもと茶の生産開始)」 https://www.pref.kagoshima.jp/ak09/chiiki/kagoshima/sangyo/nougyou/hukyuu/nougyougenntijouhou202604.html
- 特許庁「商標登録第5023855号 知覧茶」 https://www.jpo.go.jp/system/trademark/gaiyo/chidan/shoukai/ichiran/5023855.html
- 特許庁「商標登録第5008246号 かごしま知覧茶」 https://www.jpo.go.jp/system/trademark/gaiyo/chidan/shoukai/ichiran/5008246.html
- 特許庁「商標登録第6080598号 霧島茶」 https://www.jpo.go.jp/system/trademark/gaiyo/chidan/shoukai/ichiran/6080598.html
- 特許庁「商標登録第6226519号 宇治抹茶」 https://www.jpo.go.jp/system/trademark/gaiyo/chidan/shoukai/ichiran/6226519.html
- 特許庁「地域団体商標登録案件一覧」 https://www.jpo.go.jp/system/trademark/gaiyo/chidan/shoukai/ichiran/index.html
- 日本茶業中央会「緑茶の表示基準」 https://www.nihon-cha.or.jp/pdf/hyoujikijyun.pdf
- 新原製茶「鹿児島県茶市場の碾茶入札会で史上最高額落札」(2026年5月28日) https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000002.000091078.html
























































































