店のラテが評判になると、同じ抹茶を自店の名前の缶や袋に詰めて売りたい、という相談が出てきます。日本の抹茶を自店のブランドで売る方法は、英語では private label matcha、white label matcha、日本語ではOEMやプライベートブランドと呼ばれます。中身を作るのは日本の仕入れ先でも、売る国のラベルや登録の責任は売る側にかかるため、何を誰が決めるかを先に分けておくと進めやすくなります。仕入れの基本は抹茶を卸で仕入れる方法にまとめています。
抹茶のプライベートブランドとは:OEM・ホワイトラベルとの違い
抹茶のプライベートブランドは、他社が作った抹茶を自店の名前で売ることで、呼び名の違いは中身を誰が決めるかにあります。どの呼び名にも法律上の定義はないため、契約や見積もりでは中身で確かめます。
よく使われる3つの呼び名
| 呼び名 | 中身を決めるのは | ほかの店にも同じ中身が出るか |
|---|---|---|
| ホワイトラベル(white label) | 仕入れ先。既製品から選ぶ | 出ることがある |
| プライベートブランド(private label) | 自店。配合・仕様を注文で決める | 取り決めしだい |
| OEM | 作る側から見た言い方。中身は契約で決まる | 取り決めしだい |
ホワイトラベルは、仕入れ先がすでに売っている抹茶に自店のラベルを付ける形で、試作がいらないぶん早く始められます。プライベートブランドは、茶期や産地、合組(ごうぐみ:複数の茶葉を合わせて味をそろえること)を自店の注文で決めて作ってもらう形です。OEMは「相手のブランドの品物を作って納める」という作る側の言い方で、日本の茶商のサイトでもこの語が使われています。
契約で確かめること
呼び名より、次の3点を書面で確かめます。
- 配合と仕様を決めたのはどちらで、その記録をどちらが持つか
- 同じ配合をほかの店にも売るか(独占にするか)
- 包装・ラベル貼りまで仕入れ先がやるか、中身だけを受け取るか
自社ブランドの抹茶ができるまでの流れ
流れは、サンプル、仕様の決定、包装、ラベル、ロット(1回に作る量)、製造、輸送の順です。試作を何回するかと、包材を新しく作るかどうかで、かかる時間が大きく変わります。
7つの段で決めること
| 段 | 決めること | 決める人 |
|---|---|---|
| 1. サンプル | 使うメニュー(ストレート・ラテ・菓子)で比べる候補 | 自店 |
| 2. 仕様 | 茶期・産地・挽き方・色・検査の項目 | 自店と仕入れ先 |
| 3. 包装 | 袋か缶か、内容量、脱酸素剤など | 自店と仕入れ先 |
| 4. ラベル | 売る国の表示事項、デザイン、貼る場所 | 自店(輸入者) |
| 5. ロット | 1回に作る量と、次の注文の時期 | 自店と仕入れ先 |
| 6. 製造 | 挽く・詰める・ラベルを貼る | 仕入れ先 |
| 7. 輸送 | 引き渡しの条件、輸入の手続き | 自店と仕入れ先 |
日本の茶商が公開しているOEMの流れでも、問い合わせのあと、要望を聞いて価格帯を含めて企画し、抹茶を提案して試作を何度か重ね、見積もり・発注、製造、納品と進みます。試作のたびに飲み比べて調整するため、配合から決める場合は、既製品にラベルを付けるだけの場合より時間がかかります。
時間がかかるところ
時間が読みにくいのは、試作の回数、包材の手配、輸入国での登録の3つです。名入れの缶や印刷した袋は包材の会社での製造を待つことになり、タイの食品登録番号は商品ごとに取ります。日数は仕入れ先と包材によって違うため、見積もりのときに段ごとの日数を出してもらいます。サンプルの取り方は抹茶を卸で仕入れる方法の「サンプルの取り方と比べ方」で説明しています。
仕様書で決めること
仕様書には、「セレモニアル」などのグレード名ではなく、茶期・産地・挽き方・色・粒の細かさ・検査の項目を書きます。グレード名には公的な基準がなく、同じ名前でも仕入れ先ごとに中身が違うためです。
書いておく項目
| 項目 | 書き方の例 |
|---|---|
| 原料 | 碾茶(てんちゃ:抹茶の原料になる、覆いをかけて育て揉まずに乾かした茶葉)から作った抹茶か |
| 茶期 | 一番茶のみか、二番茶を合わせるなら割合 |
| 産地 | 府県名、または地域名 |
| 挽き方 | 石臼か機械か |
| 色・粒 | 仕入れ先が測っている数値と、その測り方 |
| 合組 | 決めた配合の記録を残し、次のロットも同じ配合にするか |
| 検査 | 分析証明書(COA:ロットごとの成分や菌の検査結果)、残留農薬、重金属 |
日本茶業中央会の「緑茶の表示基準」は、抹茶を碾茶を茶臼などで微粉末にしたものと定めていますが、等級は決めていません。グレードと茶期・挽き方の関係は抹茶のグレードの違いにまとめています。
次のロットも同じ味にする
自店ブランドで続けて売るなら、次のロットも同じ仕様で作れるかが大切です。抹茶は茶期や年によって原料の味が変わるため、仕入れ先が合組で味をそろえることになります。仕様書に、配合を記録して次のロットにも使うこと、変える場合は事前に知らせることを書いておきます。
日本の仕入れ先に出してもらう書類
自店ブランドの抹茶では、売る国の基準に合っていることを示す責任が自店にかかるため、検査と製造の書類を仕入れ先に出してもらいます。どれもロットごとか工場ごとに出るものなので、発注の前に出せるかを聞いておきます。
| 書類 | 使う場面 |
|---|---|
| 分析証明書(COA) | ロットごとの品質の確認 |
| 残留農薬の検査結果 | 輸入国の基準値との照らし合わせ |
| 重金属(鉛など)の検査結果 | 輸入国の基準値との照らし合わせ |
| 原産地の証明 | タイで日タイ経済連携協定(JTEPA)の関税の免除を使うとき |
| 製造施設の証明 | タイの食品登録に要るGMP製造基準適合証明書など |
| 有機の認証書 | 「organic」と表示するとき |
ジェトロによると、タイでは茶は品質規格管理食品に当たり、食品登録番号を取る必要があります。輸入するときにはGMP製造基準適合証明書も求められます。残留農薬は輸入する国の基準で見ることを抹茶を卸で仕入れる方法で、鉛の検査書類の読み方を抹茶に鉛は含まれるのかで説明しています。
包装の選び方と賞味期限
包装は、光と湿気と酸素を通しにくいものを選び、賞味期限はその包装と保存温度を前提に決めます。同じ抹茶でも、包装を変えると期限の根拠も変わります。
包装の選択肢
| 包装 | 向いている使い方 |
|---|---|
| アルミの袋(チャック付き・ガゼット型) | 業務用の大袋、店頭用の小袋 |
| 缶・茶筒 | 店頭で売る商品や贈り物向け |
| 個包装(スティック) | 1杯ずつの試供品やEC |
| 脱酸素剤 | 袋の中の酸素を吸う小袋。袋や缶と組み合わせる |
| 窒素充填 | 袋の中の空気を窒素に置き換えて封をする方法 |
京都の茶商の山政小山園は、脱酸素剤を入れて密封した抹茶について、高温を避けた未開封なら8か月の賞味期限を保証しています。茶業研究報告の保存試験では、温度が高いほど袋の中の酸素が早く減り、研究者は緑の色素が酸素のある状態で分解したと推定しています。温度ごとの保存期間と劣化のサインは抹茶の賞味期限にまとめています。
期限を決めるのは誰か
日本の消費者庁のガイドラインは、期限は容器包装の形態や保存状態などを考えて科学的に決めるもので、輸入食品では輸入業者が責任を持って決めるとしています。日本の制度ですが、考え方は輸出先でも参考になります。業務用の大袋を開けて小分けにすると、仕入れ先が大袋で決めた期限はそのまま使えません。小分けをするなら、どこで誰が詰めるかを最初に決めておきます。
シンガポールとタイのラベルのルール
自店ブランドの抹茶では、売る国のラベルの表示事項を満たす責任が、輸入者である自店にかかります。シンガポールは英語、タイはタイ語で表示し、どちらも輸入者の名称と住所が必要です。
シンガポール
シンガポール食品庁(SFA)の表示ガイドによると、小売用の包装食品には英語で次の事項などを表示します。
| 表示事項 | 自社ブランドで気をつけること |
|---|---|
| 食品の名称 | ブランド名や造語だけでなく、何の食品か分かる名称を添える |
| 正味量 | 「Net weight: 30g」のように書く |
| シンガポールの責任事業者 | 輸入者・販売者・代理人の名称と住所。電話番号やURLで代えられない |
| 原産国 | 日本で詰めたものは「Product of Japan」など |
| ロット識別 | 2026年1月30日から必要。形式は決まっておらず、ロット番号や期限でもよい |
このほか原材料の表示も求められます。日本で挽いた抹茶を輸入してシンガポールで詰め直した場合は、「Product of Japan. Packed in Singapore」と書けます。ただし、SFAは一次包装を開けて詰め直す事業には、食品加工施設の営業ライセンスが要るとしています。
出典: Singapore Food Agency「Businesses that Need Licence / Registration for Food Manufacturing & Storage」 https://www.sfa.gov.sg/food-manufacturing-storage/licence--registration
店で大袋から小分けして売るより、日本の仕入れ先で小袋に詰めてもらうほうが、シンガポールでの手続きは少なく済みます。輸入の登録と許可、日本のパッケージに英語のシールを貼るときの条件は、シンガポールに抹茶を輸入するにはで説明しています。
タイ
タイ保健省の告示No.450(2024年7月施行)は、販売のために輸入する容器包装食品に、タイ語の表示を求めています。外国語を併記することはできます。
| 表示事項 | 内容 |
|---|---|
| 食品名 | タイ語で |
| 食品登録番号 | タイ食品医薬品局(タイFDA)の登録番号を、決まった枠の中に表示する |
| 輸入者と製造者 | 輸入者の名称と所在地に加え、製造者の名称と製造国 |
| 正味量 | メートル法で、固形の食品は正味重量 |
| 期限 | 「ควรบริโภคก่อน」(賞味期限)か「หมดอายุ」(消費期限)の語を付ける |
出典: タイ保健省告示No.450(B.E.2567)「容器包装食品の表示」 https://food.fda.moph.go.th/media.php?id=654869394207416320&name=P450.pdf
タイでは、食品登録番号が輸入事業所ごとに振られ、輸入者が輸入許可を取りやめると、その下の登録番号もすべて失効します。タイFDAの規則でこう定められているため、自社ブランドの商品をどの会社の輸入許可と登録番号で入れるかは、ブランドを誰が持つかと同じくらい大事です。輸入代行の会社を使う場合は、代行をやめたときに番号がどうなるかを契約の前に確かめます。関税や割当の手続きは抹茶を卸で仕入れる方法のタイの項にあります。
日本側が用意するもの
ラベルの文面は自店が決めますが、中身の情報は日本の仕入れ先しか持っていません。原材料、正味量、製造者の名称と所在地、ロット番号の付け方、賞味期限とその前提の保存条件を、仕入れ先から書面でもらいます。ラベルを日本で貼ってもらう場合は、校正の段階で、輸入者の名称と住所、登録番号が正しく入っているかを自店で確かめます。
ラベルで避けたい表現
自店ブランドのラベルでは、根拠を示せない等級名・有機・産地・健康の表現を避けます。シンガポールの規則は、食品の性質・純度・産地・効果について誤認させる文言やマークを禁じています。
「Ceremonial」には定義がない
セレモニアル(Ceremonial)という等級は、日本の業界の表示基準にも、茶の種類を分ける国際規格ISO 20715にも定義がありません。ラベルに書くなら、一番茶のみ、石臼挽きなど、仕様書と検査書類で示せる事実と並べます。等級の呼び名の実態は抹茶のグレードの違いにあります。
「Organic」には認証書が要る
SFAの表示ガイドは、「organic」などと表示する食品には、国際食品規格(Codex)の有機の指針に沿う認証の証明書が必要としています。日本の有機JASの認証を受けた抹茶でも、日本と有機の同等性を結んだ国に、シンガポールとタイは入っていません。有機JASの条件と輸出できる国は有機抹茶とはで説明しています。
産地名と健康の表現
「Uji」などの産地名は、宇治抹茶の定義に当てはまることを仕入れ先の書類で確かめてから使います(宇治抹茶とは)。「Low in calories」のような栄養の表現は、シンガポールでは健康促進庁(HPB)の決まりに従い、栄養表示も必要になります。食べると健康になる、体の調子が良くなるといった表現は、シンガポールの規則で禁じられています。
最低ロットと単価の関係
自社ブランドの抹茶の単価は、茶葉の代金に、包材・詰める作業・ラベル・検査・輸送の費用を足したもので、少ない数で作るほど1個あたりが高くなります。版代や段取りなど、作る数に関係なくかかる費用を、少ない個数で割ることになるためです。
費用の内訳
| 費用 | 数との関係 |
|---|---|
| 茶葉 | 使う量に比例する |
| 包材(袋・缶) | 1個ごとにかかる。名入れや印刷には別に最低数が決まっていることがある |
| 詰める・ラベルを貼る作業 | 1個ごとにかかる |
| ラベル・印刷の版、デザイン | 作る数に関係なくかかる |
| 検査(COA・残留農薬など) | ロットごとにかかる |
| 輸送・輸入の手続き | 1回の出荷ごとにかかる部分が大きい |
最低ロットは、茶葉、包材、ラベルで別々に決まっていることがあります。見積もりでは、部材ごとの最低数と単価、1回きりの費用(版代など)を分けて出してもらうと、注文量を変えたときの単価を比べられます。
小さく始める方法
最初は既製の無地の袋や缶にラベルを貼る形で始め、売れ行きを見てから名入れの缶や印刷した袋に切り替えると、最低数の大きい包材を最初から抱えずに済みます。在庫の量は、開封後に使い切れる量と、置ける温度で決めます(抹茶の賞味期限)。
Omakase Matchaの場合
Omakase Matchaは、宇治・八女・鹿児島・静岡・宮崎の産地から直接仕入れた抹茶を1kgから卸しています。サンプルは3種類まで請求でき、お店のメニューに合わせた配合の調整も受けています。シンガポールとタイのお店には伺って、実際のドリンクで一緒に味を見ます。
参考にした情報
- Singapore Food Agency「A Guide to Food Labelling and Advertisements」 https://www.sfa.gov.sg/docs/default-source/food-information/labelling-and-packaging-information/a-guide-to-food-labelling-and-advertisements.pdf
- Singapore Food Agency「Businesses that Need Licence / Registration for Food Manufacturing & Storage」 https://www.sfa.gov.sg/food-manufacturing-storage/licence--registration
- タイ保健省告示No.450(B.E.2567)「容器包装食品の表示」 https://food.fda.moph.go.th/media.php?id=654869394207416320&name=P450.pdf
- タイ食品医薬品局 規則「食品登録番号」(B.E.2567) https://food.fda.moph.go.th/media.php?id=654871674310762496&name=fda-regulation-67.pdf
- ジェトロ「茶の輸入規制、輸入手続き(タイ)」 https://www.jetro.go.jp/world/asia/th/foods/exportguide/greentea.html
- 消費者庁「食品期限表示の設定のためのガイドライン」(令和7年3月) https://www.caa.go.jp/policies/policy/food_labeling/food_labeling_act/assets/food_labeling_cms201_250328_1029.pdf
- 日本茶業中央会「緑茶の表示基準」 https://www.nihon-cha.or.jp/pdf/hyoujikijyun.pdf
- 農林水産省「有機認証制度の同等性について」 https://www.maff.go.jp/j/jas/jas_kikaku/attach/pdf/yuuki-555.pdf
- 山政小山園「抹茶の取扱い」 https://www.yamamasa-koyamaen.co.jp/matcha/basic/handling.html
- 原口康弘ほか「原料抹茶の保存条件が品質に与える影響」茶業研究報告 93号(2002) https://www.jstage.jst.go.jp/article/cha1953/2002/93/2002_93_1/_pdf
- 堀田園「商品開発」 https://www.hottaen.jp/product/development.html
























































































