海外のカフェのメニューや通販では、「Uji matcha」と書かれた抹茶をよく見かけます。宇治は抹茶の名産地として知られていますが、宇治抹茶が何を指すのかは、日本の業界団体と特許庁の登録で決まっています。名前の意味と、原料が実際にどこで作られているかを知っておくと、仕入れ先の説明を確かめやすくなります。
宇治抹茶とは
宇治抹茶は、京都・奈良・滋賀・三重の4府県で採れた茶を、京都府内の業者が府内で仕上げた抹茶です。宇治市で採れた抹茶という意味ではありません。特許庁に地域団体商標(地域の名前と商品の名前を組み合わせた商標)として登録されています。
特許庁に登録された定義
特許庁の地域団体商標「宇治抹茶」(登録番号6226519、権利者は京都府茶協同組合)の対象は、次の条件を満たす抹茶です。
- 京都・奈良・滋賀・三重の4府県で採れた茶を使う
- 京都府内の業者が、京都府内で、宇治地域に由来する製法で仕上げる
- 仕上げた茶を粉砕し、臼で挽いて抹茶にする
出典: 特許庁「商標登録第6226519号 宇治抹茶」 https://www.jpo.go.jp/system/trademark/gaiyo/chidan/shoukai/ichiran/6226519.html
宇治茶の定義は2004年に決まった
もとになっている「宇治茶」の定義は、京都府茶業会議所が2004年に決めました。日本茶業中央会が同じ年に緑茶の表示の基準を改めたのに合わせたものです。定義は、京都・奈良・滋賀・三重の4府県で採れた茶を京都府内の業者が府内で仕上げたもので、京都府産を優先するとしています。京都府産を何%以上使うかという比率は書かれていません。
宇治茶と宇治抹茶は、地理的表示(GI:産地と品質の結びつきを国が保護する制度)には登録されていません。農林水産省の登録産品の一覧(2026年7月10日現在)で、茶のGIは「八女伝統本玉露」「深蒸し菊川茶」と、2026年7月に登録された「日本茶」です。
宇治茶・宇治抹茶・宇治碾茶の違い
宇治の名前がつく茶の商標は複数あり、条件がいちばん厳しいのは「宇治碾茶」です。宇治抹茶は4府県の茶を使えますが、宇治碾茶は宇治市と城陽市の茶園に限られます。
3つの商標の比較
| 商標 | 権利者 | 原料の産地 | 主な条件 |
|---|---|---|---|
| 宇治茶 | 京都府茶協同組合 | 京都・奈良・滋賀・三重 | 京都府内の業者が府内で、宇治地域に由来する製法で仕上げた緑茶 |
| 宇治抹茶 | 京都府茶協同組合 | 京都・奈良・滋賀・三重 | 上の条件で仕上げた茶を粉砕し、臼で挽いた抹茶 |
| 宇治碾茶 | NPO法人宇治碾茶生産振興会 | 宇治市・城陽市 | 棚で覆う茶園(直掛けは除く)で、本ずの覆いか寒冷紗を2重にした覆いを30日以上かけ、刈り込まずに自然に伸ばした茶の木の一番茶を手で摘み、地域の碾茶専用の炉で加工し、振興会のデータベースに登録した碾茶 |
京都府茶協同組合は、このほかに「宇治玉露」「宇治煎茶」「宇治ほうじ茶」の商標も持っています。
碾茶とは
碾茶(てんちゃ)は、抹茶の原料になる茶葉です。京都府茶業会議所によると、覆いをかけて日光をさえぎって育てた新芽を蒸し、揉まずに乾かしたものが碾茶で、これを茶臼などで挽いて粉にしたものが抹茶です。宇治碾茶は、この碾茶の中でも宇治市・城陽市で採れ、条件を満たしたものだけにつく名前です。
宇治抹茶の原料はどこで作られているか
京都府内の碾茶の約半分は和束町で作られていて、宇治市は約3%です。宇治抹茶の原料は、宇治市の周りの山あいの町や村が中心になっています。
京都府内の市町村別の碾茶
京都府の統計では、2025年の府内の碾茶(秋に作る秋碾茶を除く)は973.8トンでした。市町村別の上位は次のとおりです。
| 市町村 | 2025年の碾茶 | 府内の割合 |
|---|---|---|
| 和束町 | 476.7トン | 約49% |
| 南山城村 | 171.5トン | 約18% |
| 宇治田原町 | 156.1トン | 約16% |
| 木津川市 | 60.2トン | 約6% |
| 宇治市 | 31.6トン | 約3% |
割合は府の合計973.8トンから計算。
出典: 京都府「参考資料(令和7年茶生産実績)」 https://www.pref.kyoto.jp/nosan/documents/r7chachosa2.pdf
京都府外の茶も宇治抹茶になりうる
定義上、奈良・滋賀・三重で採れた茶も、京都府内の業者が府内で仕上げれば宇治茶・宇治抹茶になります。どの府県の茶がどれだけ使われているかを示した統計は、見つかりませんでした。
産地ごとの碾茶の生産量
抹茶の原料の生産量は、鹿児島県が全国1位で、京都府は2位です。京都府によると、京都府の碾茶は全国に先がけて増えましたが、鹿児島県が煎茶から碾茶への切り替えを急速に進め、2020年から鹿児島県が全国1位になりました。
府県別の碾茶(2025年産)
全国茶生産団体連合会の調べでは、2025年産の碾茶は全国で6,278トンでした。
| 府県 | 碾茶 | 全国の割合 |
|---|---|---|
| 鹿児島 | 2,670トン | 約43% |
| 京都 | 989トン | 約16% |
| 静岡 | 875トン | 約14% |
| 愛知(西尾など) | 463トン | 約7% |
| 三重 | 398トン | 約6% |
| 宮崎 | 304トン | 約5% |
| 福岡(八女など) | 280トン | 約4% |
割合は全国の合計から計算。京都府の989トンは全国茶生産団体連合会の数字で、上の京都府の統計(973.8トン)とは集計元が違います。
産地の名前と量の関係
宇治は抹茶の産地としての歴史が長く、名前もよく知られていますが、量では鹿児島県が京都府の約2.7倍あります。宇治抹茶という名前は、量ではなく、どこの茶をどこで仕上げたかを示すものです。
宇治の碾茶の育て方
宇治では、茶畑に覆いをかけて日光をさえぎる「覆い下栽培」で碾茶を育てます。京都府茶業会議所によると、宇治で覆い下栽培が始まったのは室町時代の後期です。
覆いのかけ方
京都府茶業会議所は、4〜5月に茶畑を覆うのは保温のためではなく、直射日光をさえぎって、うま味のもとになるテアニンがカテキンに変わるのを抑えるためだと説明しています。
覆いのかけ方には、次のような種類があります。
| 覆いのかけ方 | 内容 |
|---|---|
| 本ず | 茶畑の上の棚によしずを広げ、その上に稲わらを広げて日光をさえぎる |
| 棚がけ(1段・2段) | 茶畑の上の棚に、化学繊維の黒い覆いを1段または2段かける |
| 直掛け | 茶の木に覆いを直接かける |
京都府茶業研究所によると、本ずで育てた茶は最高の品質とされますが、高さ約1.8mの棚の上で稲わらを広げる作業は危なく熟練が要るため、面積は大きく減っています。京都府の統計では、2024年度の府内の碾茶の茶園は、直掛けが281.3ha、1段の棚が146.8ha、2段の棚が95.7ha、よしずとこもが20.1haでした。直掛けが約半分を占め、よしずを使う覆い(本ずと、こもを使う覆い)は約4%です。
手摘みと機械摘み
京都府の茶業振興計画は、碾茶と玉露は手摘みから機械摘みへの切り替えや、直掛けの増加で単価が下がってきたこと、伝統的な手摘みの碾茶は摘む人の高齢化などで年々減っていることを挙げています。府は、覆いのかけ方の変化によって品質の二極化が進んでいるとしています。宇治の名前がついていても、育て方と摘み方は茶園ごとに違います。
宇治の碾茶の値段
京都の茶市場の碾茶の値段は、2024年から2026年の2年で約3.3倍になりました。京都府は、宇治抹茶の人気が高く、訪日客の大量購入で府内の茶商が一部商品の販売制限や休止をしたと書いています。
一保堂茶舗が公開した全農京都茶市場の一番茶の取引平均単価(京都府茶業会議所のデータ)では、抹茶の原料(初茶の碾茶)は次のとおりでした。
| 年 | 1kgあたり |
|---|---|
| 2024年 | 5,402円 |
| 2025年 | 14,144円 |
| 2026年 | 17,797円(6月19日時点) |
値段が上がった理由と、カフェの仕入れへの影響は、抹茶は今も足りないのかにまとめています。
海外で「Uji matcha」を買うときに確かめること
海外では、日本の定義に当てはまらない抹茶にも「Uji」の名前が使われることがあります。京都府の茶業振興計画には、中国産の低品質な抹茶が「宇治茶」「宇治抹茶」の名前でベトナムなどへ輸出されていると書かれています。農林水産省も、中国産の「宇治抹茶」が流通するなどの知的財産の侵害が増えているとしています。
仕入れ先に確かめること
宇治抹茶として仕入れるときは、仕入れ先に次の点を書類で確かめます。
- 仕上げた業者と場所:京都府内の業者が京都府内で仕上げたか
- 原料の産地:京都・奈良・滋賀・三重のどれか。府県と、できれば市町村まで
- 京都府茶協同組合の組合員か:京都府茶業会議所が組合員の一覧を公開している
- 「宇治碾茶」と書いてあれば:宇治市・城陽市で採れ、条件を満たした碾茶か
表示の決まり
日本茶業中央会の「緑茶の表示基準」(業界の自主基準)では、産地銘柄(産地の名前)を表示するには、国産で、その産地の原料を50%以上使う必要があります。100%なら「○○茶」、50%以上100%未満ならブレンドだと分かるように書きます。荒茶の産地とは別の場所で仕上げた場合は、仕上げた場所を書きます。宇治茶のように産地の範囲が府県をまたぐ場合は、その名前を使う関係者が範囲などの条件を決めることになっています。
カフェは宇治抹茶を選ぶべきか
産地の名前だけで、ラテに向くかどうかは決まりません。産地ごとに味の良し悪しを比べた公的なデータは見つかっていません。同じ産地でも、覆いのかけ方、手摘みか機械摘みか、一番茶か二番茶か、合わせ方で味と値段が変わります。
お店で選ぶときは、次の順番で決めると迷いにくくなります。
- ラテ用か、ストレート用かを決める(抹茶の等級の違い)
- 1杯の原価から、使える仕入れ値の範囲を出す(カフェの抹茶ラテに使う抹茶の選び方)
- 宇治と、鹿児島・静岡・八女など別の産地のものを、同じ量・同じミルクで飲み比べる
- 選んだ抹茶の産地・ロット・検査の書類をそろえる
メニューに「宇治抹茶」と書く場合は、仕入れた抹茶が上の定義に当てはまることを仕入れ先の書類で確かめておきます。Omakase Matchaが扱う産地は、抹茶の産地にまとめています。
参考にした情報
- 特許庁「商標登録第6226519号 宇治抹茶」 https://www.jpo.go.jp/system/trademark/gaiyo/chidan/shoukai/ichiran/6226519.html
- 特許庁「商標登録第5050328号 宇治茶」 https://www.jpo.go.jp/system/trademark/gaiyo/chidan/shoukai/ichiran/5050328.html
- 特許庁「商標登録第6205526号 宇治碾茶」 https://www.jpo.go.jp/system/trademark/gaiyo/chidan/shoukai/ichiran/6205526.html
- 京都府茶業会議所「宇治茶Q&A」 https://ujicha.or.jp/knowledge/qa
- 京都府茶業会議所「理科」 https://ujicha.or.jp/enjoy/science
- 京都府茶業会議所「買える店(京都府茶協同組合組合員)」 https://ujicha.or.jp/knowledge/howto/buy
- 京都府茶協同組合「事業内容」 https://kyocha.or.jp/business_content/
- 農林水産省「地理的表示(GI)保護制度 登録産品一覧」 https://www.maff.go.jp/j/shokusan/gi_act/register/index.html
- 農林水産省「茶をめぐる情勢(令和8年10月)」 https://www.maff.go.jp/j/seisan/tokusan/cha/attach/pdf/ocha-201.pdf
- 愛知県「2025年産茶の生産状況」(全国茶生産団体連合会調査) https://www.pref.aichi.jp/uploaded/attachment/622005.pdf
- 京都府「参考資料(令和7年茶生産実績)」 https://www.pref.kyoto.jp/nosan/documents/r7chachosa2.pdf
- 京都府「令和6年度 京都府産茶の生産・流通状況等に関する資料」 https://www.pref.kyoto.jp/nosan/documents/r6chachosa1.pdf
- 京都府「京都府茶業振興計画」(2025年3月) https://www.pref.kyoto.jp/nosan/documents/2025kyoto_chagyousinkoukeikakui.pdf
- 京都府農林水産技術センター茶業研究所「試験研究業務月報」(2020年7月) https://www.pref.kyoto.jp/nosoken/monthlyreport/documents/r20705.pdf
- 一保堂茶舗「2026年10月・11月 商品仕様の見直しと価格改定について」 https://www.ippodo-tea.co.jp/blogs/news/20260901
- 日本茶業中央会「緑茶の表示基準」 https://www.nihon-cha.or.jp/pdf/hyoujikijyun.pdf
























































































