シンガポールで抹茶パウダーを探すと、30gや40gの缶を並べた小売の情報が多く出てきます。カフェで毎日ラテに使うなら、量・値段・書類の考え方が変わります。仕入れ方ごとに誰が何を引き受けるのかを、シンガポール食品庁・税関・内国歳入庁の公開情報で2026年10月時点で確かめました。
シンガポールで抹茶パウダーを仕入れる3つの方法
カフェが業務用の抹茶を仕入れる方法は、国内の輸入卸から買う、日本から自社で輸入する、小売やECで少量を買う、の3つです。どれを選ぶかで、輸入の手続きを誰が引き受けるかが決まります。
シンガポールでは、加工食品を販売目的で輸入できるのは、シンガポール食品庁(Singapore Food Agency、SFA)に登録した事業者だけです。抹茶は加工食品に入るため、どの方法でも、誰かがこの登録を持って輸入しています。
| 国内の輸入卸 | 日本から自社で輸入 | 小売・EC(国内) | |
|---|---|---|---|
| SFAの輸入の登録 | 卸が持つ | 自社が持つ(DDPなら売主側が手配する場合もある) | 小売店側が済ませている |
| 通関・輸入許可 | 卸 | 自社か申告代理人 | 不要 |
| 1回に買う量 | 卸が決めた単位 | 日本の売主の最低ロット | 缶・小袋単位 |
| 産地・ロットの見えやすさ | 卸の書類しだい | 売主から直接もらえる | 缶の表示だけのことが多い |
| 向いている店 | 手続きを持ちたくない店 | 使う量が多く、書類を自分で管理したい店 | 試作・開店前・少量のメニュー |
カフェとして店を開くには、輸入の登録とは別に、SFAの食品店舗のライセンス(Food Shop Licence)が必要です。SFAは、レストランやコーヒーショップなどをこの区分に挙げています。
日本からシンガポールへの抹茶の流れ
2026年1〜8月に日本からシンガポールへ輸出された粉末状の緑茶は52.8トンで、1kgあたりの単価は前年同期の7,097円から9,531円に上がりました。量は前年より減り、金額は増えています。
日本茶輸出促進協議会が財務省の貿易統計などをもとにまとめた集計では、シンガポール向けの緑茶は次のとおりです。
| 2026年1〜8月 | 粉末状 | その他(葉など) | 計 |
|---|---|---|---|
| 輸出量 | 52,794kg | 66,153kg | 118,947kg |
| 輸出額 | 5億316万円 | 2億7,599万円 | 7億7,915万円 |
| 1kgあたりの単価 | 9,531円 | 4,172円 | 6,550円 |
出典: 日本茶輸出促進協議会「緑茶の国別・形状別輸出実績 2026年1〜8月」(財務省貿易統計・農林水産省農産局報告より作成) https://nihon-cha.or.jp/export/wordpress/wp-content/uploads/2026-08_cha_export.pdf (間の国の行は省略)
粉末状の輸出量は前年同期の89.0%、輸出額は119.5%で、輸出額の65%を粉末状が占めます。農林水産省の整理では、統計の「粉末状」は抹茶と、茶を粉砕器などで粉にした粉末茶を合わせた区分で、抹茶だけの数字ではありません。日本の原料の値段が上がった経緯は抹茶は今も足りないのかにまとめています。
国内の輸入卸から買う
国内の輸入卸から買うと、SFAの登録、輸入許可、通関、輸入時のGSTを卸が引き受けます。カフェは輸入の手続きを持たずに受け取れます。
卸に聞いておくこと
手続きが要らない代わりに、どこで、いつ作られた抹茶かが見えにくくなることがあります。産地と茶期、ロット番号とロットごとの分析証明書(COA)、残留農薬の検査結果、製造日と届く時点での賞味期限までの残りの期間を聞きます。比べ方は後の「見積もりの比べ方」の表にまとめています。
卸がGST登録をしていれば、請求書に9%のGSTが上乗せされます。
最低量と納品の単位
1回に買える量や納品の単位は、卸ごとに決まっています。毎月の使用量を出してから、何袋ずつ、どの間隔で届けてもらうかを決めます。使用量の出し方は抹茶を卸で仕入れる方法に書いています。
日本から自社で輸入する
日本の会社から直接買う場合は、自社がSFAに登録し、出荷のたびに税関の電子申告システム(TradeNet)で輸入許可を取ります。手続きは増えますが、産地とロットの書類を売主から直接受け取れます。
自社で輸入するときに要るもの
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| SFAの登録 | 加工食品の輸入登録。無料で、SFAの審査は1営業日 |
| 輸入許可 | 出荷ごとにTradeNetで申請。加工食品の許可にSFAの手数料はかからない |
| 申請する人 | 自社か、フォワーダーなどの申告代理人 |
| 小売用のラベル | 店頭で缶や袋を売るなら英語の表示が要る。ドリンクに使う業務用の袋は一般の表示規定の対象外 |
会社の番号(UEN)や税関アカウントの有効化、商品コードの選び方、表示のルールはシンガポールに抹茶を輸入するにはにまとめています。
サンプルにも登録と許可が要る
SFAは、小包で届くサンプルを受け取って販売する場合も、販売目的の輸入とみなします。税関も、食品のような管理品目はCIF価格(商品代・保険料・運賃の合計)が400シンガポールドル以下のサンプルでも許可が要るとしています。登録を持たない店は、登録を持つ輸入業者を通してサンプルを受け取る方法があります。
輸送条件で、輸入者が変わる
日本の売主と結ぶ輸送条件によって、輸入の手続きを誰がするかが変わります。DAP(仕向地持込渡し)では輸入通関と税を買主が受け持ち、DDP(関税込持込渡し)では売主が輸入通関と税まで受け持ちます。DDPなら店は通関の作業をしなくて済みますが、輸入許可に誰が輸入者として載るかで、GSTの扱いが変わります。条件ごとの違いは抹茶を卸で仕入れる方法に、自店の名前で缶や袋を作る場合は抹茶をプライベートブランドで作るにはにあります。
小売やECで少量を買う
国内の小売店やECで缶や小袋を買う方法は、開店前の試作や、抹茶を使うメニューが少ない店に向いています。輸入の手続きは小売店側で済んでいるため、すぐに使えます。
家庭向けの量で売られている
小売の抹茶は30gや40gなど家庭向けの量で売られているものが多くあります。メニューに定着して毎日使うようになったら、後で紹介する1杯あたりの抹茶代の計算で、業務用の袋と比べます。
海外の店から小包で取り寄せる場合
日本のネットショップから小包で取り寄せる場合は注意が必要です。SFAは、小包で届く食品を受け取って販売する場合も販売目的の輸入にあたるとしています。店で使う材料を小包で取り寄せるときは、登録と輸入許可が要るかを事前にSFAに確かめます。
GSTは仕入れ方で払い方が変わる
シンガポールのGST(物品サービス税)は9%で、輸入した抹茶には輸入時にかかり、国内で買う抹茶には売り手がGST登録をしていればかかります。違うのは、誰が税関に払い、誰が仕入税額として控除できるかです。
輸入時のGSTと控除の条件
内国歳入庁(IRAS)によると、輸入時のGSTは税関に払い、免除や猶予の制度に当たる場合を除いて、GST登録の有無にかかわらずかかります。課税対象は、CIF価格に、関税と手数料などの付随費用を足した額です。
GST登録をしている会社は、輸入時に払ったGSTを仕入税額として控除できます。条件の一つは、輸入許可に輸入者として自社の名前が載っていることです。IRASは、本来の輸入者であっても、別の会社が輸入者として記載された許可では、その許可をもとに控除できないとしています。
出典: Inland Revenue Authority of Singapore「Importing of Goods」 https://www.iras.gov.sg/taxes/goods-services-tax-(gst)/claiming-gst-(input-tax)/importing-of-goods
仕入れ方ごとのGSTの扱い
| 仕入れ方 | GSTを税関に払う人 | カフェ側で確かめること |
|---|---|---|
| 国内の輸入卸 | 卸 | 請求書にGSTが別に書かれているか |
| 自社で輸入(FOB・DAPなど) | 自社(申告代理人を通して払うこともある) | 輸入許可の輸入者が自社か |
| DDPで日本の売主から | 売主側が手配した輸入者 | 輸入許可の輸入者が誰か、見積もりにGSTが含まれているか |
| 小売・EC(国内) | 小売店側 | レシートの金額にGSTが含まれているか |
GST登録が義務になるのは、課税売上が暦年で100万シンガポールドルを超えた場合か、次の12か月で超える見込みの場合です。登録していない店は仕入れのGSTを控除できないため、GSTを含めた金額を原価として計算します。
暑さと湿気の中での受け取りと保管
シンガポールは1日の平均気温が月ごとに26.8〜28.6℃、年平均の湿度は約82%です。保存試験で品質が保たれた25℃を上回るため、届いた日から低い温度で保管します。
茶業研究報告に載った、加工用の原料抹茶の保存試験では、25℃以下なら24週、商品の特徴が保たれ、37℃では3〜4週が使える限界でした。京都の茶商の山政小山園は、未開封の抹茶を冷凍・冷蔵などで保存し、常温に戻してから開けるよう勧めています。
輸入卸からなら倉庫と配送の温度管理を、自社で輸入するなら通関で止まる日数と到着から店の冷蔵庫に入れるまでの段取りを、小売なら店頭で日の当たる棚に置かれていないかを見ておきます。開封後は、一保堂茶舗が1か月以内に使い切ることを勧めています。袋の大きさの決め方は抹茶の賞味期限と保存にまとめています。
見積もりの比べ方:1杯あたりの抹茶代
見積もりは、等級の名前ではなく中身の条件をそろえ、届くまでの費用を含めた1杯あたりの抹茶代で比べます。1kgの値段だけでは、送料やGSTの扱いが違う見積もりを比べられません。
中身の条件をそろえる
「ceremonial」「latte」「culinary」などの等級の名前は、売り手が使い道の目安として付けている呼び名です。次の項目を見積もりごとに並べます。
| 項目 | 確かめること |
|---|---|
| 茶期 | 一番茶だけか、二番茶以降を含むか |
| 産地 | 都道府県と、合わせたものならその内訳 |
| ロットとCOA | ロット番号と、そのロットの分析証明書 |
| 残留農薬 | シンガポールの基準で見た検査結果 |
| 荷姿と期限 | 1袋の量、製造日、賞味期限までの残りの期間 |
等級の違いは抹茶のグレードの違いに、ラテに向く等級はカフェの抹茶ラテに使う抹茶の選び方に書いています。
1杯あたりの抹茶代を出す
次の順番で計算します。
- 届くまでの1kgあたりの値段を出す(商品代+送料+通関の費用+GSTを控除できない場合はGST)
- 1杯の抹茶代 = 届くまでの1kgあたりの値段 ÷ 1,000 × 1杯に使うグラム数
たとえば仮に、届くまでの値段が1kgあたり300シンガポールドルの抹茶を1杯3g使うと、抹茶代は0.90ドルです。同じ計算を小売の缶でもすると、仕入れ方を変えたときの原価の差が分かります。
契約の前に確かめるチェックリスト
契約の前に、手続き・書類・値段・保管の4つを確かめます。
- 手続き:輸入許可に輸入者として載るのは誰か。サンプルをどう受け取るか。店頭で缶や袋も売るなら、英語のラベルを誰が付けるか
- 書類:産地・茶期・ロット番号が、届く袋と書類で一致するか。ロットごとのCOAと、シンガポールの基準で見た残留農薬の検査結果が出るか
- 値段:送料・通関の費用・GSTが行ごとに分けて書かれているか。支払い条件と、値段が見直される時期
- 保管と量:届く時点で賞味期限まで何か月残るか。1袋が開けてから1か月で使い切れる量か
Omakase Matchaから仕入れる場合
Omakase Matchaは、宇治・八女・鹿児島・静岡・宮崎の産地から直接仕入れた抹茶を、1kgから卸しています。シンガポールへは、関税と税をこちらで負担して届けるDDPです。支払いはWiseまたはPayPalでの前払いで、シンガポールのお店には訪問もしています。
注文前に味を確かめたい場合は、3種類までサンプル請求ができます。条件はシンガポール向け卸に、書類の考え方は品質・書類にあります。
参考にした情報
確認日:2026年10月16日
- 日本茶輸出促進協議会「緑茶の国別・形状別輸出実績 2026年1〜8月」 https://nihon-cha.or.jp/export/wordpress/wp-content/uploads/2026-08_cha_export.pdf
- 農林水産省「茶をめぐる情勢(令和8年10月)」 https://www.maff.go.jp/j/seisan/tokusan/cha/attach/pdf/ocha-201.pdf
- SFA「What You Need to Know for Import of Food for Commercial Sale」 https://www.sfa.gov.sg/food-import-export/commercial-imports/what-you-need-to-know-for-import-of-food
- SFA「Application Process & Fees for Licence / Permit / Registration for Import / Export」 https://www.sfa.gov.sg/food-import-export/licence-permit-registration/application-process-fees-for-licence-permit-registration-for-import-export
- SFA「Businesses that Need Licence / Permit for Food Retail」 https://www.sfa.gov.sg/food-retail/licence-permit/businesses-that-need-licence-permit-for-food-retail
- SFA「A Guide to Food Labelling and Advertisements」 https://www.sfa.gov.sg/docs/default-source/food-information/labelling-and-packaging-information/a-guide-to-food-labelling-and-advertisements.pdf
- Singapore Customs「Importing Trade Samples」 https://www.customs.gov.sg/doing-business/import-operations/import-procedures/importing-trade-samples/
- Singapore Customs「Goods and Services Tax」 https://www.customs.gov.sg/doing-business/valuation-duties-and-fees/goods-and-services-tax-gst/
- IRAS「Importing of Goods」 https://www.iras.gov.sg/taxes/goods-services-tax-(gst)/claiming-gst-(input-tax)/importing-of-goods
- IRAS「Current GST Rates」 https://www.iras.gov.sg/taxes/goods-services-tax-(gst)/basics-of-gst/current-gst-rates
- IRAS「Do I Need to Register for GST」 https://www.iras.gov.sg/taxes/goods-services-tax-(gst)/gst-registration-deregistration/do-i-need-to-register-for-gst
- ジェトロ「DAP(仕向地持込渡)条件について」 https://www.jetro.go.jp/world/qa/04A-011212.html
- ジェトロ「VAT登録の要否:EUへ輸出する場合」(DDPの説明) https://www.jetro.go.jp/world/qa/04O-110801.html
- Meteorological Service Singapore「Climate of Singapore」 https://www.weather.gov.sg/climate-climate-of-singapore/
- 原口ほか「原料抹茶の保存条件が品質に与える影響」茶業研究報告93号(2002) https://www.jstage.jst.go.jp/article/cha1953/2002/93/2002_93_1/_pdf
- 山政小山園「抹茶の取扱い」 https://www.yamamasa-koyamaen.co.jp/matcha/basic/handling.html
- 一保堂茶舗「How to Keep Your Matcha Fresh」 https://ippodotea.com/blogs/ippodo-tea-blog/how-to-keep-your-matcha-fresh
























































































